凡人総研
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さて、自分は『オメラスから歩み去る人々』は寓話だと思っています。寓話はその寓意を人々に伝える為に、極端な世界観を持つものが少なくありません。『オメラスから歩み去る人々』であれば、街の繁栄の為にたった一人の子供に不幸を背負わせなければならない事や、その子供を助ける事が事実上禁じられている事等が当てはまります。それは一見すると理不尽にも思えるのですが、だからといって現実から乖離した荒唐無稽な話かというと、そうとばかりは言えない部分がある様に思えます。 ミヤシタさんは「オメラスに住む人々というのは犠牲に対して、その存在を認知してはいるが何にもできない、困っている人がいても見て見ぬふりしか出来ない人間なのだと自分は考えます。」と述べられました。耳が痛い話です。なぜ耳が痛いのかと言えば、自分にも心当たりがあるからです。 功利主義では、『最大多数の最大幸福』という事が説かれます。民主主義もまた、功利主義的な考え方を基本理念としています。問題は、どうしてもこの『最大多数』の中に入れない人間が出るという事です。オメラスで虐げられる子供の様に。自分達にはまだ『最大多数』を『全員』に変える事が出来ていません。むしろ「そんな事は不可能だ」と考える人が大勢を占めているでしょう。自分も含めて。 『最大多数の最大幸福』を目指す上で、少数派に属する人間が出てしまう事。その少数派の犠牲を前提に構築されているのが民主主義であり、だからこそ多数派は少数派の意見に耳を傾け、彼等の犠牲を最小限にする事が求められます。しかしながら、多数派は往々にして数という力によって少数派を踏み潰そうとします。その方が楽だからであり、その方がより自分達の利益を追求できるからです。こうした社会では、自分が主流派である間は容易く利益を得る事ができますが、逆に何らかの弾みで少数派や弱者の立場に置かれると浮かび上がる事が難しくなります。 何の事はない、今の日本の話であり、自分の話です。 現実に「困っている人」はいます。自分のすぐ隣にもいるでしょう。ですが自分が具体的にそういった人達の為に何かしたか、動いたか、働きかけたかと言えば、答えは否です。せいぜい何かの時に募金でもしたかな程度のものです。でも本当は、それではいけないのでしょう。不十分なのだと思います。なぜならこの世界は、相も変わらず弱者の存在を黙認する事で--黙殺する事で--成立しているからです。間違った世界と『戦う』という事は、そうした前提を壊して行かなければならないという事なのですから。 ふと思う事があります。『オメラスから歩み去る事を選んだ人々』は、オメラスとは違う世界を見付ける事が出来たのでしょうか。もしもそれがまだこの世に存在しないのなら、新しい社会を創る事が出来たのでしょうか。オメラスとは違う、弱者の犠牲を必要とはしない社会を。そしてそれは、この現実で見付ける事が、創る事が出来るものでしょうか。 “あなたは、何かを追い求めているのですね。だったら泣くのはそれを見つけてからにしなさい” あの黒帽子なら、きっとそう言うのでしょうが。
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Author:黒犬
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