最近、勝負してる?・押井守『勝つために戦え! 監督篇』

 早いもので、このブログを始めてからもうすぐ1年になろうとしている。その間何があったのかというと、まあ何も無かった訳ではないのだけれど、そんなに激動していた訳でもないという、まあまあなバランスでやってこれたのではないかと思っている。で、原点に帰って今回は押井守氏のインタビュー集をご紹介。

 この本は元々雑誌で連載されていた内容を再構成したものになるのだけれど、一言で言うと『映画監督にとっての勝敗』という切り口で勝敗論について語っている。毎回ある映画監督とその作品を取り上げて、その具体例を元にして勝負とは何かという事に迫ろうという試みなのだけれど、勝敗論を語る為には、まず『映画監督の勝利条件とは何か』という事から明らかにしなければならない。

 一般的に言われる映画の成功条件としては、やはり『観客動員数が多い事』『興行収益が高い事』がある。まあ客が入ったかどうかというのは作品が成功したか失敗したか判断する上で重要な要素だ。何せ映画はビジネスだ。商業的成功が無ければ次回作が立ち行かなくなる。そういう意味で、いかに映画監督が『映画は芸術なんだから金の話はいいんだよ』と言ってみたところで、現実は重くのしかかる。
 しかし、それはあくまでも『映画の成功条件』の一つに過ぎないのであって、『映画監督の成功条件』とはまた異なる。その、映画の成功と映画監督の成功を切り離した考え方がちょっと面白いなと思う。

 ただそこで、『興行収益とか観客動員数なんか監督にとってはどうでもいいんだよ』というありがちな話になるんだったら、この本に意味はないし、価値もない。けれど、押井氏が見据える成功条件には、きちんと映画を収益性のあるものにするという事も含まれている。
 端的に言えば、押井氏にとって映画監督の勝利条件とは『常に次回作が作れる状態を勝ち取る事』にある。その為には、当然商業的にある程度の成功を勝ち取る事も求められる。映画監督としての仕事を続ける為、常に次回作の可能性を留保し続ける為に、商売として映画を成功させてみせる事はやはり必要なのだ。

 では逆に、商業的に成功し続けてさえいればいいのかというと、そんな事もない。もちろん赤字続きであるより余程いい事は確かなのだけれど、興行的に常勝無敗であるという事は不可能だし、一度興行的に大きく勝ってしまった監督はその次も、またその次も興行収益の戦いに勝ち続ける事を求められる。そしてヒット作を作る為の制約にがんじがらめにされて行く。

 結論として、映画監督は各々が自ら目標を定め、そこに至る為に必要な勝利条件を満たす為の戦いを続ける事を求められる。その目標とは『次回作を作り続けられる様にする事』かもしれないし、『赤字を出さない事』かもしれないし、『自分の撮りたい映画をいかにして撮るか』かもしれない。もしかすると『映画賞を取って名誉を得る』事を目標として定めている映画監督もいるかもしれない。そこに至る為の勝利条件は映画監督の数だけ存在するだろうし、正解は多分無い。でもそれが『勝負する』という事なのであって、その戦いは映画監督という仕事でなくても、何ら変わるところは無い。

 自分なんかもここ数日、今の政府について文句を言っていたけれど、結局『日本にとっての勝利条件』というものをこの国の政府が示せないという状態に文句があるという事なのかもしれない。どういう姿である事をこの国が希求するのか。そしてその為にどの様な勝利条件を定め、具体的にどう戦うのか。その戦い自体を保留し続ければ確かに負ける事はないのかもしれないけれど、同時に勝つ事も無い。永久に。そうして勝負しないでいる間に、周辺国の勝負に巻き込まれ、利用され、状況に流されて右往左往するしかない。それが嫌なら、やはりどこかで自ら勝負する事を選ばなければならない局面が来るのだろう。

 最近、勝負してる?という自己反省も含めて、なかなか面白い一冊だった。

 

テーマ : **本の紹介**
ジャンル : 本・雑誌

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Author:黒犬
映画と小説を主食に生きている。
地方の片隅で今日も黙々生息中。

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