子供の瞳に映るもの・安倍吉俊『リューシカ・リューシカ』

 この歳になると、何だか自分が子供の頃に持っていた感性というものはもう摩耗してしまったんじゃないかと思う事が多々ある。もちろん、いい意味で考えればそれは少しの事で動じなくなったとか、秩序を守って生きるという社会性を身に付けた結果だとか言う事は出来る。けれど、少しの事で動じなくなったという事は感受性が鈍った結果かもしれないし、秩序を守るという事は考え方が硬くなったという事かもしれない。

 もちろん、子供のままの感性を持って生きるという事は決して幸せな事ではないと思う。何に対しても子供の様に剥き出しの心で接する事はそれだけ傷付き易い心を抱えて生きるという事かもしれないし、秩序に従う事が出来ない人間に対して社会は寛容ではないからだ。
 自分達が子供のままでいられないのは、大人にならなければならないのは、何よりこの社会で生きる為にそれが必要だからだ。

 でも、そう思いつつも自分達は時々子供の頃に感じていた何かを、子供の頃は見えていた筈のものを懐かしく思う。今はもう失われてしまったものを想う。
 けれど、それらは本当に自分達の中から消え去ってしまったのか。もしかするとそれらは自分達の心のどこかに奥深い場所に仕舞い込まれてしまっているだけかもしれない。

 本作『リューシカ・リューシカ』はリューシカという少女の日常をゆるゆると描く、安倍吉俊氏のフルカラー漫画だ。元々はWEBで連載されている作品で、こういう作品が無料で読めるのだからいい時代になったなーと思う。全体的な作風は同氏の作品で言うと『ニアアンダーセブン』とか『薬局のポチ山さん』の系譜だなーと思うけれど、あずまきよひこ氏が『よつばと!』で描いている様な子供像ともまたちょっと違って、所々でいかにも安倍氏らしい描写が光る。

 子供って何が面白いって、『大人がそう望む様な子供像』とか『大人が予想するリアクション』っていう奴を絶対に裏切る。子供は狭くなってしまった大人の想像の枠内には絶対に収まらない。そして、そうかと思えば大人から見ても『妙に大人』な物言いをする事もあったりする。自分もかつてはそんな存在だった事をころっと忘れて、自分達大人は今現在を生きている訳で、そんな事が滑稽ですらある。

 昔、リューシカの様に世界を見ていたであろう自分はどこに行ったのか。もう戻らない自分だけれど、案外まだ近い所をうろうろしているのかもしれない。そうやって道に迷っているのはあの頃の自分なのか、今の自分なのかは分からないとしても。

 

テーマ : 漫画の感想
ジャンル : アニメ・コミック

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Author:黒犬
映画と小説を主食に生きている。
地方の片隅で今日も黙々生息中。

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