小説の行間、漫画の行間 原作・冬目景 著・星希代子『イエスタデイをうたって デイ・ドリーム・ビリーバー』

 自分は普段あまり漫画のノベライズというものを読まない。理由は特に無いのだけれど、多少原作至上主義者のきらいがある事は否めないなと思う。だから今回は数少ない例外だろうけれど、これはまあどうでもいい前置き。

 さて、本作は装丁が漫画と完全に合わせてあって、『原作と一緒に本棚に並べて下さい』という製作者側の意図がうかがえる。本の厚みも大体同じ位だ。ただ、新書版の上下二段組に慣れている自分からすると、漫画の単行本サイズで一段の本文は分量的にちょっと物足りないかな、とも思う。まあ本作は短篇集だし、原作の空気を写し取る為にはこの位の文字量が丁度良いのかなという気もする。収録作は下記の通り。

 『デイ・ドリーム・ビリーバー』
 『ペーパームーン』
 『旅をしませんか』
 『どこまでも行こう!』

 『どこまでも行こう!』以外の三作品の共通点は、原作から時間を遡って、登場人物達の過去に焦点を当てているという事だ。
 表題作の『デイ・ドリーム・ビリーバー』は、中学生時代のハルに告白しようとする男子生徒二人の視点で描かれる異色作。『ペーパームーン』は原作にも登場した「付き合って4ヶ月で魚住を振った元彼女」である柚原チカを中心に、魚住と柚原の別れを描く。『旅をしませんか』は大学時代の魚住と榀子が二人きりで思わぬ小旅行に出掛ける事になるというエピソード。そして『どこまでも行こう!』はある疑惑から魚住と榀子を追跡する事になる早川浪とハルという、少しコメディ色のある作品だ。
 原作の性格上、長編小説として一本の作品を書き上げるよりも、こうした番外編的な短編をまとめた方が良いという判断があったのかもしれないなと思いつつ、『森ノ目先生贔屓』の自分としてはやはり『旅をしませんか』を一押ししておこう。

 さて、話はここから大きく脱線する。
 こうして小説化された『イエスタデイをうたって』を読んでいて思うのは、冬目作品が持っている『行間を読ませる』かの様な雰囲気についてだ。もちろん原作は漫画だから、本当の意味での行間というものは存在しないのだけれど、例えば登場人物の台詞が無いコマの中にも、その細やかな表情の変化や仕草、流れる空気によって何かを描き出してみせる様な力が確かに感じられる。

 以前自分はその事を力説しようとして『サイレンの棲む海』という短編に関する感想を物凄い勢いで書き上げ、友人に送り付けるという酷い事をやった前科があるのだが、(それはそれとして闇に葬りつつ)この、漫画でありながら行間を感じさせる力量というものは正直凄いと思う。具体例を挙げるとすると色々あってちょっと迷うけれどね。その他にも、例えば手近な所ではこの小説版の表紙と、同時発売された単行本7巻の表紙絵にしても一つのストーリーとして繋がって読める様になっているとか、細かな部分にも魅力がある作品だと思う。

 小説の行間と漫画の行間。そのどちらも楽しんでみせるのが本読みという人種なのかもしれない。

 

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地方の片隅で今日も黙々生息中。

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