地獄を夢想するという事 ジョン・ミリアス&レイモンド・ベンソン『米本土占領さる!』

 たまにはこんな作品を。それにしてもこの邦題、一体誰が考えたのだろうか。

 という訳で、ゲーム『HOMEFRONT』のノベライズである本作『米本土占領さる!』について。自分はゲームは未プレイなので、ゲーム版との比較等は出来ないのだけれど、夏来健次氏による訳者あとがきによれば、ゲームで語られる物語の前日譚にあたるオリジナルストーリーという事だ。
 ゲームもやっていない自分が何故この本を手にしたかというと、そのシナリオがかなりカッ飛んだ内容だというのを耳にしていたからだったりするのだけれど、実際読んでみればこれが噂に違わず相当酷いものだった。


“二○二六年の現在、アメリカじゅう探しても安逸に暮らせている者など一人もいないだろう。当然のことだ、電気系統のインフラがすべて破壊され、食料も水も不足し、あらゆるメディアが機能不全となり、近代的移動手段が壊滅し、そして何よりも、あの北朝鮮によって国が占領されている現状にあっては。
 北朝鮮による占領――この言葉を思い浮かべただけで、ウォーカーの背筋に冷たいものが走る。もしこの先百万年後まで生きられるとわかっていたとしても、自分が生きているあいだにアメリカが他国に侵略されるなどとは夢にも思わなかっただろう。”


 ここだけ引用しても相当無茶苦茶な設定だが、もう少し詳しく説明すると、金正恩を新たな最高指導者とした北朝鮮が悲願であった南北統一を契機に日本を含めた東南アジア各国を併合し大朝鮮連邦を設立、遂には「ある兵器」を用いた奇襲作戦によりアメリカ本土にまで侵攻するという、ここまで来るといっそ呆れを通り越して笑うしかないというシナリオだ。特に、南北統一の功績を認められた金正恩がノーベル平和賞を受賞するくだりは、その後の展開を考えると苦笑する。「本著はフィクションであり~」という断り書きにしても、そりゃフィクションだろうよ、としか言い様がない。

 しかし、よくある架空戦記ものとしても、アメリカにとって『地獄』としか言い様がないシナリオをよくもまあここまで描いて見せたものだと思うが、何でも当初は北朝鮮ではなく中国を敵国として想定していたそうで、シナリオを変更する上で代役として妥当性がありそうな国が北朝鮮しか無かったという事なのかもしれない。それにしても在韓米軍、在日米軍は何をしていたのかと思うが、在韓米軍は朝鮮半島の平和的な統一を受けて存在意義を問われ、在日米軍は米国経済の悪化に伴って、それぞれ撤退していたという有様。日本に至っては宣戦布告後の侵攻を受けて国内の原子力施設を多数占拠されたばかりか、見せしめに近い形で原子力発電所の一つを爆破されるに至り“銃弾一発の迎撃も果たさぬまま降伏”したなどと書かれる始末だ。北朝鮮がアメリカ本土に侵攻するというシナリオ上、日本はそれ以前にやられている設定なのだろうとは思っていたけれど、ここまで酷い扱いとは想定していなかった。日本人として、そこには異議申立てしたいところ。

 アメリカの人は愛国精神が強そうなイメージがあるだけに、何故この様な作品が生まれるのか理解し難い部分もあったのだけれど、よく考えて見れば敢えて苦境に立たされる祖国を描く事で、そこから国民が一致団結し見事に復活する様をよりドラマティックに演出しようとする意図なのかもしれない。少年漫画の主人公が一度はピンチに陥らないといけないのと一緒で、逆転が約束された危機というか。映画『インデペンデンス・デイ』とか正にそのパターンだしね。あの映画を見た時には「遂に超大国アメリカの敵は宇宙人にしかつとまらなくなったか」と変に感慨深いものがあったけれど。

 という訳で『米本土占領さる!』でした。それにしてもこれ、何度も言う様だけれど原題のままじゃいけなかったのだろうか。

 

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地方の片隅で今日も黙々生息中。

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