出版業界における問題作として・乙一『GOTH番外篇 森野は記念写真を撮りに行くの巻』

 

 最初に書いておかなければならない事がある。本作は、以前単行本で刊行されていた『GOTH モリノヨル』の小説部分だけを再録して文庫本に仕立てたものだ。それをよく調べずに、単行本を持っているのに文庫を買ってしまった人間がここに一人。まあ自業自得なんだけど、単行本を買ったのがもう随分前なので内容を忘れていた。
 自分はこのブログについては、あまりネガティブな事は書かない方針でやっているのだけれど、今回はちょっと思う所があったので以下に書き残しておこうと思う。内容を不快に思う方もいるかもしれないけれど、ご容赦願いたい。

 さて、『GOTH モリノヨル』は、以前『GOTH リストカット事件』が実写映画化された際に、映画との連動企画で刊行が決まった作品だ。中身は半分が小説で、半分が写真集という特殊なものだったのだけれど、乙一作品を期待して本を買った人にとっては文書量が少なく、写真集としての内容を期待して買った人にとっては、その写真があたかも「素人が撮った様な」ものであった事から、当時物議をかもした。
 そのあたりの経緯は、今回の文庫版に収録された乙一氏のあとがきの中で詳しく説明されているのだけれど、写真集部分を担当した写真家の新津保建秀氏の名誉の為に言っておくと、素人が撮った様な写真に見えるのは、あくまでも意図してのものなのだそうだ。しかし、『GOTH モリノヨル』にあとがきや解説の類が一切収録されなかった事から、その意図は読者側に十分伝わらず、結果として単行本の評価は低いものとなった。

 自分は所謂メディアミックスとか、原作小説の映像化という奴には結構寛容な方だと思う。中には原作のイメージが崩れる事を嫌って「下手な映像化ならしなくてもいい」という立場をとる方もいるとは思うし、自分もその通りだとは思うのだけれど、かといって声高に映像作品を批判したり、ネガティブキャンペーンをする程でもない。
 自分としては手段が何であれ、それによって原作が売れる事に繋がるのなら映画化でもアニメ化でもどんどん進めてもらって一向に構わない。仮に出来上がって来た作品が、自分の気に入らない様なものだったとしても、それは受け手であるこちら側が無視すれば良いという立場だ。別に映像化が盛大にコケたとしても制作費を出しているのは自分ではないし、原作者が映像化作品の興行収入や売上について結果責任を取らされる訳でもない。

 商売の話をすると金が絡んだりする嫌な話になりがちだとは思うのだけれど、それでもあえて言っておくと、『売れる』というのはやはり大事だ。特に出版業界でライトノベルというジャンルは漫画に次いで『売れなければ次はない』という世界なのではないかと勝手に思っているのだけれど、そんな中で次回作を期待する読者の側からすれば、自分が気に入った作品が売れるに越したことはない。ヒット作を狙うあまり、売れ筋の作品と似た様な作品ばかりが粗製濫造される様になる事は本意ではないけれど、少なくとも次回作が読めるレベルで作品が売れてくれないと読者としても困る。だから自分は原作を使った商売を基本的には是としている。それで原作が売れ、原作者に利益が還元され、シリーズが続く事に繋がるのなら。

 そこで話は本作に戻る事になるのだけれど、そのあとがきの中でで乙一氏は『GOTH モリノヨル』について、当初写真集のおまけの様な扱いで小説が巻末に収録されるのだろうと思っていたのに、実際の本では小説部分が本の半分を占め、また収録のされ方も小説が冒頭から半分、残り半分に写真という構成だった事から、『写真集のおまけとして書いたつもりの文章が目立つようなつくりになっていて、僕はそのことにがっかりしました。』と書いている。また、『ほかにもこの件に関していろいろとかんがえさせられることがありました。結果的にそれがトラウマとなって、『GOTH』の続編を書かない理由でもあるのですが、これ以上、くわしく書くと暗い話になってしまうのでやめておきましょう。』とも書いている。いくら何でも原作者にここまで書かせてしまう企画には問題があったと言わざるを得ない。原作者が作品を書き続ける為の助けになるどころか、逆に続編を書かない理由のひとつになってしまう様な企画なら、最初から無い方が良いと思うのは自分だけだろうか。
 そんな中で本作というか、今回の文庫版に価値があるとすれば、『GOTH モリノヨル』の悪評のせいで当時単行本を買わずにいた人の中で、小説部分だけを読みたいという方のニーズに応えたという程度しか思い浮かばない。でもこの程度の文書量だったらそれこそ電子書籍で配信すればいいだろうとも思う。

 というわけで、ここでは珍しくネガティブな内容になってしまった。後から消す様な事はしないけれど、慣れない事はするものじゃないと思う。

  

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Author:黒犬
映画と小説を主食に生きている。
地方の片隅で今日も黙々生息中。

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