日本から戦場を見る為には デイヴィッド・フィンケル:著 古屋美登里:訳『兵士は戦場で何を見たのか』

 

 以前、これもまたデイヴィッド・フィンケル氏の著作である『帰還兵はなぜ自殺するのか』という本の感想を書いた。読んでみるとまるで小説であるかの様に感じさせる内容だが、これは取材に基づいて再構成された実話である。そして本作『兵士は戦場で何を見たのか』は、翻訳、出版される順序が逆になったが、『帰還兵はなぜ自殺するのか』の前編に当たる。

 戦争の実態というものは、実際に戦地に赴いた者でなければ分からないだろうと思う。どんなに資料を集め、関係者にインタビューを行い、有識者の意見に耳を傾けたとしても、理解し得ないものが戦争なのだろうと自分は思っている。その点、本作の著者は8ヶ月間、実際にイラクで米軍部隊に同行し、取材を行った。そこから描き出される戦争の姿は生々しく、各章の冒頭で引用される当時の合衆国大統領ジョージ・W・ブッシュの演説内容が「現実を知らぬ者の妄言」に聞こえる程だ。

 本著では2007年から2008年にかけてイラク戦争に派兵された「第一歩兵師団第四歩兵旅団第十六歩兵連隊第二大隊」の兵士達が体験したイラク戦争の姿が描かれている。大隊指揮官であるラルフ・カウズラリッチ中佐にとってのイラク戦争。この大隊で最初の戦死者となったジェイ・ケイジマ上等兵にとってのイラク戦争。そしてケイジマ上等兵の後に続くことになる戦死者達や、IED(即席爆発装置)の爆発で四肢をもぎ取られる事になる数多くの兵士達、そして本国で彼等兵士の無事を祈って待つ家族達にとってのイラク戦争。それらの戦争の姿は、ブッシュ大統領の頭の中にあるイラク戦争とは違う。

 時は過ぎ、大統領はバラク・オバマになり、2011年には米軍の完全撤収によってイラク戦争の終結が正式に宣言された。しかしながら、彼等兵士達の戦争は終わっていないし、今後も終わる事は無いだろう。失った四肢を取り戻す事が不可能な様に。或いは、フラッシュバックする悪夢の様な光景がいつまでも頭の中から消えない様に。

 前作『帰還兵はなぜ自殺するのか』もそうだが、本作についてもまた、自分がここで言葉を並べるよりも、実際に読んでもらう方が早いだろう。そこには実際に戦地に赴き、自らの命を危険に晒し、少なくない犠牲を払いながら闘った兵士達の姿が生々しく描かれている。戦争を知らない自分達は、彼等の声に耳を傾け、自分達が住むこの国の安全保障政策のあり方についてもっと真剣に議論しなければならないのだろう。

 敢えて酷い言い方をするならば、『ネトウヨ』『ブサヨ』といった言葉で意見の違う双方が相手を罵るだけのお遊びをしている暇はない。そんな事に時間を費やしていられる余裕が自分達にあると思うのならば、それは大きな間違いだ。今必要なのは真剣な議論であり、その土台として、自分達は現在の戦争のあり方を学ばなければならないのだろうと思う。

  

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ジャンル : 本・雑誌

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地方の片隅で今日も黙々生息中。

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