ガンマニアもそうでない方もご一緒に・時雨沢恵一『ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンライン (4) ―サード・スクワッド・ジャム ビトレイヤーズ・チョイス (上)―』
だからタイトルが長いですってば。しかも回を重ねる毎に長くなっている印象。今度からこのシリーズのタイトルは何かしら略そうかと考え始めるレベルだ。
さて、最近読書時間や感想書きの時間をあらかた『Division』に注いでしまっているせいで、ブログも放置気味なのだけれど、それでも何冊かは読んでいるので先ずはジャブ気味に軽く感想など。まあ、作品の中身はいつものアレです。以上終わり。
……とまあ、これで本当に終わってたらどうしようもないので、もう少し書いてみる。
実銃がバンバン登場するガンアクション系ライトノベルを得意とする作家さんは何人かいると思う。自分として真っ先に思い浮かぶのは、『ヤングガン・カルナバル』シリーズでもお馴染みの深見真氏だ。ちなみにキアヌ・リーブス主演の映画『ジョン・ウィック』の中で「肘を伸ばさずに拳銃をコンパクトに構えて至近距離から撃つ」という動きをする『ガン・フー』というアクションがあるのだけれど、自分はこれを観た時に深見氏が『僕の学校の暗殺部』シリーズの2巻で出していた近接戦での拳銃捌きを思い出した。あれは何ていう名前だったか忘れたけれど、実際に相手に拳が届く程の超至近距離で拳銃を撃つ際のテクニックとして、誰かが考案したのだろうとは思う。
海外では法執行官等を対象に、銃の撃ち方や立ち回り等を教えるタクティカルトレーニングというものがあって、インストラクターも何人もいるから、映画でもリアルさを追求する為にそうした人達にアドバイスをもらったりしているのだろう。ただライトノベルの場合、そこは作家本人の知識量だけが物を言う世界だ。編集部は作品を校正するだろうけれど、まさかインストラクターやガンマニアを雇用してアクション作品の考証をさせるなどという事はしない。だからこうした作品は『作家自身がマニアである』方がよりリアルであり、面白いと個人的には思う。
話を本作に戻す。先程までの話を踏まえて、では時雨沢氏はどうなのかというと、これがなかなか面白い匙加減になっていて、本人は間違いなくマニアなのだろうけれど、マニアにありがちな「これはマニア的な基礎知識なので、作品中でいちいち説明はしません」という様な用語の羅列が極力無い様に書いていると思う。
例えばライフル弾の弾頭種別による貫通力と殺傷能力の違い等は、ある程度の基礎知識を持っている読者ならば細かく説明されなくとも頭に入っているし、説明部分が長くなると話の流れがその分停滞するから、過剰な説明は好まれない。ただ、どこまでが適切な説明で、どこからが過剰な説明なのかという線引きが難しい事も事実だ。世のライトノベル読者全てに「詳しくはググれ。もしくは『月刊Gun Professionals』と『アームズマガジン』と『コンバットマガジン』辺りを読んで基礎知識を仕入れろ」と言わんばかりの説明の省き方をした作品を読ませる事は酷だと思う。そこをクリアして作品を面白く読んでもらう為には、「何をどこまで説明するか」という通訳的なスキルが求められる事になる。
言い換えれば、『スター・ウォーズ』シリーズについて知っている者同士が話をしている時に、作品を全く知らない人が会話に参加して来て、「そもそもスター・ウォーズってどんな話?」という所から噛み砕いて説明しなければならない様なものだ。まあスター・ウォーズでなくてもスタートレックでも機動戦士ガンダムでも何でも一緒だけれど、知らない人に対して語るには無駄に専門用語が多くて辟易すると思う。知っている者同士ならいちいち繰り返すまでもない用語説明が必要になるからだ。「ジェダイって何?」「フォースって何?」とか。
そこを踏まえると、時雨沢作品の中でも本作は実銃による銃撃戦というマニア向けの題材を扱いながら、実銃に詳しくない読者にもすらすらと読めて、なおかつ説明部分が冗長にならず、マニアが読んでもテンポを削がないという上手いバランスにまとまっていると思う。この辺りの上手さは流石といったところ。
今回は上下巻構成という事で、結末はまだ先になるのだけれど、下巻もこの「いつものノリ」だと思うので期待。そして自分はトリガーハッピーではないのだけれど、今回新しい宗教まで始めてしまった『ZEMAL(全日本マシンガンラバーズ)』の皆さんの活躍にも期待。イエス!オープンボルト!