人間を深く知れば知る程に・浅井ラボ『されど罪人は竜と踊る 19: 灰雪の蹉跌』

 

 帯には『2017年秋TVアニメ放送!!』という文字が踊っているのだけれど、いっその事アナピヤ編とかやってくれませんかねって無理ですかそうですか。

 まあアニメ化の話はさておき、自分はガガガ文庫に移籍してから『され竜』を読み始めた人間なので、読者歴は浅い。それでも既に19巻という事で、思えば結構な期間浅井氏の作品を読み続けていると言える。今回はシリーズの中で定期的に刊行される短編集形式の1冊となっているが、自分は浅井氏の書く短編が割と好きだ。上下巻構成のボリューム感溢れる長篇を読むのも好きだが、短編集では収録作毎に違った味わいが楽しめるので密かに楽しみにしている。

 さて、どんな作品であれシリーズが長期化してくると新規読者が入り難いのではないかと要らぬ心配をしてしまう。上遠野浩平氏の様に、ひとつのシリーズを延々と続けつつ、他のシリーズも並行して展開して行くタイプ(まあ氏の作品は全て繋がっているのでひとつの巨大なシリーズ作品と言えなくもないけれど)とは違い、浅井氏の場合は『され竜』以外に出版されているシリーズ作品が存在せず、しかも『Strange Strange』の様な独特な短編集は読者を選ぶので人に勧め難い。自分は好きだが。

 自分達が生きている現実世界に存在する諸問題を、ライトノベルの世界観に持ち込んで再構成する浅井氏の手腕は、かつて『暗黒ライトノベル』と称されたが、氏の書く小説が『暗黒』なのだとすれば、その黒さは現実の闇に起因するのであって、全てが氏の想像や妄想の産物ではない事を明記しておく必要があるだろう。例えば本巻に収録されている『少女たちの肖像』で描かれる『闇』は、現実の世界でもそこかしこに潜んでいる類のものだ。

 そうした闇を覗き込みたいという暗い欲求は、誰しも持っている普遍的なものの様で、このブログでもマイケル・ストーン氏の『何が彼を殺人者にしたのか』という本を紹介した事があるのだが、かなり昔に書いた記事であるにも関わらず、今でも定期的に読まれている。それは怖いもの見たさが大半なのだろうと思うが、人が殺人者の履歴や犯罪者の動機を知りたがるのは、自分の中に、というかもっと漠然と、人間というものの中にどれ程の闇があるのかという事を知りたいと願うからなのだろう。

 実際、その闇は底無しなのだろうと思う。ただ、人が『底無しの闇』と聞いた時に『実際に想像する闇の深さ』には個人差がある。そして、人間というものを深く知れば知る程、その想像できる『底』は深さを増して行く。だからだろう、人間の闇を知ろうとする行為には果てが無い。どこまでも深く降りて行ける。

 浅井氏の小説が暗黒とされるのは、氏が想像できる『底』が他者のそれよりも深い位置にあるからなのではなかろうか。そこから醸成される闇の色濃さが、氏の作品の持ち味であると自分は思っている。

テーマ : 本の紹介
ジャンル : 小説・文学

プロフィール

黒犬

Author:黒犬
映画と小説を主食に生きている。
地方の片隅で今日も黙々生息中。

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
検索フォーム
Twitter
リンク
RSSリンクの表示
Amazon