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命令だからじゃなく、祈りを胸に・浜松春日『ラストオーダー 1 ひとりぼっちの百年戦争』

 

 考えてみたらライトノベルを読むのは久し振りかもしれない。読み終えてから、著者が元自衛官で、異世界自衛隊ものの小説を書いていらした方という事を知りました。


 ヒューマロイドと呼ばれる、人間に限りなく近い外見を持つロボット(アンドロイド)が人間に代わる労働力として急速に普及し始めた世界。軍事も例外ではなく、ヒューマロイド兵士が生まれていた。物語の主人公である女性型ヒューマロイド「DHI-Type77 エゲリアNo-13」通称『リア』もまた、そんなヒューマロイド兵士のひとりだ。

 そして間もなく、何らかの世界情勢の変化によって大規模な戦争が勃発する。国家対国家の戦争だったのか、或いは『半生物兵器』と呼ばれる、昆虫や野生動物を模した形状をした増殖する自立戦闘機械群の暴走がきっかけだったのかは判然としないが、ともかく人類は地上を追われ、地下で細々と暮らす様になった。開戦からおよそ100年の間に人間が持っていた技術の多くは失われ、文字を読める者も少なくなり、過去の戦争は神話じみた物語として口伝される様になった。その中では『主人を裏切った機械達が戦争を引き起こした』とされているが、既にそれが正しいのかどうかも分からない。

 ただ、そんな世界で『リア』は戦い続けていた。敵から都市を防衛せよとの最後の上官命令、ラストオーダーを守り続けて。戦闘停止命令も、救援部隊の到着もないまま『ひとりぼっちの百年戦争』は続く。その戦いが終わる日は来るのか。


 個人的に、個々の作品について語る時に他作品やアニメ、ゲームの名前を出すのはあまり好きではないですが、あえて書くなら『Detroit: Become Human』の様な『人間とアンドロイドの間に摩擦が生じ始めた社会』から始まり、戦争による文明社会の崩壊を経て『Horizon Zero Dawn』で描かれた、人間を殺戮する機械群が跳梁する世界に至るという流れを、この日本を舞台にして再構築した様な物語です。

 自分はポストアポカリプスものが好きなのと、「機械の女の子」みたいなネタにとことん弱いのもあって本作を読んでみた訳ですが、本作を楽しめるかどうかの基準としてはそのどちらも本質ではなくて、『人間の命令を愚直に守り続けるロボット』という存在に、いじらしさや健気さを感じられるかどうか、という部分が一番大きいのだろうと思います。

 ちょうど今、自分は『Fallout76』というオンラインゲームをやっているのですが、このFalloutシリーズもまた、核戦争で世界が滅んだ後に、地下核シェルターに逃げ延びて生きながらえた人々が、ふたたび地上に出てそれぞれのコミュニティを作って行く物語です。核兵器で焼き払われたかつての世界は、汚染物質で変異したと思しきモンスターやかつての人間の成れの果ての様なクリーチャーがはびこる危険地帯になっている訳ですが、そこかしこにかつての繁栄の跡があり、そうした遺物を収集したりする楽しみもあります。

 誰かが書いた日記や手紙の断片。生活雑貨の類。そして、世界が滅んだ後も人間の命令を守り続けるロボット達。そういうものを目にするのが、自分は好きです。

 こんな想像をしてみて下さい。かつて遊園地だった場所で、今日も訪れる筈のない来園者の為に働き続けるロボット達。そして閉園時間に流れるアナウンス。

 「本日のご来園、ありがとうございました。皆様お気を付けてお帰り下さい。またのご来園を心よりお待ちしています――」

 彼等は、いつまで人間の為に働き続けるのでしょうか。
 人間以上の判断能力を持ったアンドロイドなら、自分がしている事が無駄だと気付いて何か別の生き方(あえて『生き方』と書きます)を模索するでしょう。何なら人間に取って代わって地上を支配してしまってもいい。でも一方で『人間の命令を守り続けるロボット』は、本作の『リア』の様に、人間からのラストオーダーを遂行し続ける事を選ぶ訳です。そこに疑いを挟む事をしない。自分の判断を優先させる事もない。

 そこで、彼等ロボットの『愚直さ』(あえてこう書きます)を愛せるかどうか。それが本作を楽しめるかどうかに割と大きく関わって来ます。愚直さを『愚かさ』だと蔑んでしまう人には向かない。そしてもうひとつ大事な事があるとすれば、『ロボットの愚直さ』を現実に体現していると言えるのは、実は軍人なんですよね。日本で言えば自衛官という事になります。

 冒頭で書いた通り、著者は元自衛官です。命令というものが持つある種の『重み』を理解した上でこの物語を書いています。だから、『ロボットが人間の命令に従うのはロボットだからだ』という文脈には決してしたくないだろうなと思うのです。本作を読んでいても、それは感じられる部分です。

 『ロボットが人間の命令に従うのはロボットだからだ』
 『軍人が上官の、ひいては国家の命令に従うのは軍人だからだ』

 このふたつは同列です。たとえその命令が、自分の身の安全を保証しない類のものであったとしても、彼等は命令に従うでしょう。でもそれは『なぜか』という所を「ロボットだから」「軍人だから」と短絡させない描き方を作者は模索していますし、そこに作者の『祈り』がある様に自分には思えます。

 ロボットに『人間を慕う』『人間を愛する』という機能は本来実装されていません。人間が相手にそれを感じるとしたら、まず間違いなく錯覚の類です。でも、人間の命令を愚直に守る彼等の姿を描く時に、その『動機』として、ロボットと人間の間に相互の愛情があって欲しいし、それがお互いにとっての支えであり、喜びであって欲しいと願うのは、「軍人だから命令に従わなければならないのだ」という態度や規律だけでは命を懸けられない事を知っているであろう作者の『祈り』なのだろうなと自分には思えます。

 その祈りは、果たして届くか。
 届いて欲しいな、と自分は思います。自分達読者に対しても。そして今この時、困難な社会情勢の中で、命懸けで働いている医療従事者に代表される全ての人々に。
 命令だから、使命だから、仕事だからという上辺ではなく、何がその命令を守らせる本当の動機なのか。自分達はなぜ困難に立ち向かう事が出来るのかという事。その本質を、この物語を通して描き切って見せて欲しいなと思います。

 

テーマ : 本の紹介
ジャンル : 小説・文学

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黒犬

Author:黒犬
映画と小説を主食に生きている。
地方の片隅で今日も黙々生息中。

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