タコツボから這い出す為に・阿部真大『世界はロックでできている』

 昔何かの本で読んだ事がある。

 『経済に詳しい人間は世界や人間を経済によって語り、軍事に詳しい人間は同様に軍事バランスによってそれを語る』

 細かい点はきっと違うだろうが、概ねこの様な事だった。人間は自分の得意とする視点や自分の中の価値観に則って世界を見ているから、同じ世界に生きていても当然見えている景色は人によって異なる。

 だから本作はロックによって世界を語る。

 自分ははっきり言って音楽業界に明るくはない。『NO MUSIC, NO LIFE.』なんて言わない。音楽が無くてもきっと人間はそれなりに生きて行くだろうというのが自分の立場で、多分それはこれから先もきっと改まる事は無いだろう。別に音楽なんて一切聴かないとは言わないけれど、自分の音楽に対する欲求は少ない。
 ならば何でこの様な本を買ったのかといえば、自分の中に自分とは異なる視点を取り込む為だ。

 例えば自分は本が好きだ。だから本を買う。でも、そこで自分が買う本というのは自分の趣味によって選ばれたものだから、必然的に傾向は似通ってくる。同じ様な本ばかり買っていると、確かに自分の趣味には合っているのだろうけれど、どうしても単調になる。
 おまけに最近はAmazon等の通販サイトが消費者の購入履歴から機械的に集計したお勧め商品を紹介してくれたりする。別に頼んではいないのだけれど、お気に入りの作家の新刊が出る時、気付かずに買い逃すなんていう事が減るのも確かだ。そんな機能を便利だなと思ってだらだら使っていると、自分の中のアンテナが更に弱ってきて新しい発見はどんどん少なくなる。

 何よりまずいのは、そうやって自分が作り上げたタコツボの中で暮らす事に満足してしまうと、自分一人の狭い価値観が世界の全てであるかのように錯覚し始める事だ。例えば自分にとって世界がクソでも、他人の目線から見れば世界はまだ捨てた物じゃないのかもしれない。もっと言えば、クソなのは世界の方じゃなくて自分自身かもしれない。

 だから時には、自分と全く違う価値観と視点で世界を眺めている人の言葉を自分の中に取り込む事が必要になる。主に世界に絶望しない為に。生きる事に飽きてしまわない様に。でもまあそれを結局は本に求める所がいかにも自分らしい気がして、お前は本当にその辺を理解してるのかと自分にツッコミを入れながら読み進めた。

 意外と自分の部屋に転がっているCDのアーティストが紹介されていて驚く。目次から拾えるものだけでも『Linkin Park』『Bullet For My Valentine』『Children Of Bodom』と、自分にとって聞き覚えのあるアーティストが並ぶ。しかし阿部氏が彼等について熱っぽく語るのに対して、自分が彼等の音楽を聴く時の姿勢たるや、単純にストレス解消に有効だとか、ノリがいいだとか、その程度のものでしかない。
 同じアーティストの曲を聴いていても、阿部氏には彼等の背後にあるロック史とでも言うべき大きなストーリーが見えているし、何よりロックに対する熱量が全く違う。そして自分が単純に消費対象として聴き捨てる様に音楽を耳から流し込んできたのに対し、彼にとって音楽を聴くという行為は生きる上での切実さと密接に結び付いたものとなっている。

 同じ時代を生き、同じ音楽を聴いていても、自分と阿部氏の見ている世界は違う。自分がこの世界を生きる為に本を欲しているのと同じ切実さで、彼はロックを欲している。その自分とはずれた視界を覗く事で、自分はようやく自ら作り上げたタコツボから窒息寸前で這い出す事が出来る。

 これからあと何度同じ様な事を繰り返すのかは判らない。自分はきっとまたタコツボを作り、そこで懲りずに窒息寸前の『生き苦しさ』を味わって、また誰かの助けを必要とするんだろう。それを少しでも先送りする為に、自分の世界というか、守備範囲を少し意図的に広げてみる事も大事だ。そう思う。

 とりあえずその為の第一歩として、次はアジカンでも聴いてみようと思う。

 

テーマ : 本の紹介
ジャンル : 本・雑誌

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Author:黒犬
映画と小説を主食に生きている。
地方の片隅で今日も黙々生息中。

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