15の夜を超えて・元長柾木『全死大戦 2 少女覚醒』

 1巻についての感想は先日書いた通り。
 この2巻もまた、全巻同様2008年に刊行された単行本『荻浦嬢瑠璃は敗北しない』を加筆・訂正し、シリーズものの文庫作品として改題された作品だ。こちらも単行本については未読なので、両者の比較はしない。

 2巻まで読み進めて、ようやくこの作者が何を言わんとしているのかが朧気ながら理解出来た気がする。だからこそ1、2巻同時発売だったのだろうけれど、単行本として刊行された当初は、2005年7月に1巻、2008年3月に2巻と、時間的にかなりの間があった。この事が作品を評価する上でのネックとなっていた可能性はあると思う。
 何せ1巻のみを読んだ段階だと、飛鳥井全死という域外者が『好き勝手絶頂』(©平野耕太)に色々な事に首を突っ込んだ挙句、無茶苦茶な結果を招いておきながら『わたしは、また正しかったんだ』とかなんとか言うだけの作品だと取られかねない内容だったからだ。それはもう、「お前は石川五ェ門か!」とツッコミを入れてしまいたくなるレベルで。『またつまらぬものを斬ってしまった』っていうアレね。

 けれど、この2巻ではその全死の闘争が如何なる理由によって行われ、どこに向かおうとしているのかという一定の方向性が示される。主人公を荻浦嬢瑠璃とし、舞台も嬢瑠璃が通う中学校とした事で学園物という解り易い体裁を取りながら、前巻では言及されていなかった物語の全体像について補足的に説明が入る形だ。それにしても文庫2冊分を費やしてようやく大戦のスタートラインに立つというのはライトノベルに要求される展開速度としては遅い気もする。

 ちなみに、作者と自分とはほぼ同世代(作者の方が若干年上)なのだけれど、作中でも『15の夜』の歌詞が引用されている尾崎豊について、自分は過去にこんな文章を書いた。
 作中では『卒業』の歌詞そのものの様なシーンがあり、その中で『15の夜』が流れる。こういうシーンに、象徴的に尾崎を引用してしまうのがこの世代なのだろうかとは思うけれど、でも自分達の世代がまだ少年だった頃、14歳や15歳だった彼等は尾崎を聴きながら大人達の敷く法と肥大した自意識との齟齬に苦しんでいた。先に書いた通り、自分はその戦いに積極的に参加する事は無かったのだけれど、この作品が徹頭徹尾個人の自由意志と法との対立を描こうとするなら、法に従属する事で、生きる事を半自動化させてしまった現代人の有り様を否定しようと試みるのなら、自分はきっとその中で切って捨てられる『背景雑音(バックグラウンドノイズ)』という事になるのだろう。

 でも、あの頃尾崎を聴いていた自分達の世代が、15の夜を超えて今も生きているというその事は、そこまで絶望的な事なのだろうか。社会に適応しなければならなかった事は間違いで、たとえ社会を打ち壊しても世界に自己を打ち立てろと強者は言う。しかし、背景雑音と化した自分は、大人になってルビコン川を渡ってしまった自分は、もうそこまでの革命意識を持てない。それは唾棄すべき生き方なのかもしれないが、強者になれなかった自分は現状こうして社会に属して生きて行くしかないのも事実だ。

 どうしろってんだ、と思う。

 でも結局それは自分で探すしかない。参る。本当に参る。
 社会は人間が自らより良く生きる為に生み出した装置だったが、今や装置を維持する為に人間が犠牲になっている。それはその通りで、間違っている事も分かる。しかしその中で、俺はそんなものに頼らないで生きるんだと高らかに歌い上げたとしても、そいつが立っている場所は既に社会の内側だ。ああ、だからこその定義として『域外者』なのかとは思うけれど、現実に人間が域外に立って生きる事の困難さは自分が良く知っている。

 15の夜を超えたって生きて行かなけりゃならない僕等にはそれぞれの戦場がある。それは域外者から見れば背景雑音なんだろう。狭い社会の内側でごちゃごちゃやっているだけに思われても仕方ない。世界から見れば低レベルな社会の内側で展開される戦争ごっこだ。でもそれを生きる自分達にとってはそれこそがリアルな戦争で、戦場だ。それが日々を生きるという事だ。だから域外者達の大戦がどういう結末を迎えるのかとは別として、確かなのはこの戦争が今日も明日も続くという、その事だけだ。本当に途方に暮れるけれど。

 最後に言葉遊びとして。『殉教体(レヒツシュタート)』転じて『立法体(レヒツシュタート)』に敵対する者が手にする概念が『立体の平面化』っていうのはちょっと面白かった。他の当て字やルビも含めて、言葉遊びの妙というか、思考実験というか。概念を遊ぶ小説なのかとも思う。

 

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地方の片隅で今日も黙々生息中。

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