幸村誠『プラネテス』(1)

 

 人間、本当に好きなものについて語るのはなかなか骨が折れる。
 何しろ、どんなに言葉を並べても、そのものの魅力を伝え切った気がしない。自分で書いた文章を読み返しては気に入らずに捨てるという事を繰り返し、結局昨日は更新する事を諦めた。

 という訳で、一昨日からの宇宙繋がりという訳でもないけれど、幸村誠『プラネテス』について。
 自分がこの本を手にしたのは大学生の頃だった。自分は基本的に漫画雑誌を買わない。立ち読みもしない。だから漫画を買う時は、それが単行本になってからという事になる。
 漫画の新刊というのはどこの書店でも平積みにされている事が多いので、表紙を見た時のイメージというか、第一印象というのは購入前の判断基準として大きい。最近はビニールカバーもかかっていて、買う前にちょっと試し読みするという訳にも行かないし。

 その日書店の新刊コーナーに立ち寄ると、平積みされた漫画本の山の中から一人の宇宙飛行士が自分の方を見ていた。青い地球をバックにこちらを見上げ、何か挑む様な、問いかける様な視線だった。
 表紙を一目見ただけで買おうと思った本はそう多くないと思う。

 この本を紹介しようという時、他の作品を紹介するのと同様にあらすじを語ったり物語の背景となる設定について語ったりする事に、自分はあまり価値を見出す事が出来ない。誰でも読めば判るし、通じる様になっている。SFだからとか、いきなり宇宙なんていわれてもピンとこないんじゃないかとか、先入観はあるかもしれない。でもそこに登場する人間達(あえて『キャラクター』とは言わない)は自分達と同じ様に『生きて』いる。難しく構える事は無い。だから作品解説は他に譲るとして、別の事を書こうと思う。

 人間は今日まで様々な科学技術によって発展してきた。それこそ宇宙空間にまで進出する位に。しかしフィクションの世界では、いつからかそれらが非常にネガティブな意味で語られる事が多くなった。何せ人間は宇宙に進出してまで戦争に明け暮れ、環境破壊を起こし、自ら生み出した原因によって滅亡の危機に瀕している。
 こうなってくると、『科学技術の発展は必ずしも人間を幸福にしない』というテーマの作品が乱立する事になる。ひいては科学技術だけに留まらず、『そもそも人類が今まで邁進して来た道程自体が完全な間違いだったんじゃないか』という後ろ向きな見方が広まる事にもなる。
 結果としてフィクションでもノンフィクションでも『ロケット打ち上げも結局は弾道ミサイル等の技術と同じではないか』『宇宙進出等といっても、結局は地球を食い潰した人間が今度は宇宙に手を出すという事だろう』等と、宇宙開発というテーマだけでなく、人類全体について後ろ向きな見解が多くなる。それは当然の成り行きで、ちょっとやそっとではどうにも変えようが無い。だって8割9割は事実だしね。

 でも、自分は思う。『そういうのはもううんざりだ』と。

 『科学技術の発展は人類の幸福に寄与しない』『戦争や環境破壊を止められない人間は愚かでもう手の施しようが無い』という主張そのものが正しいとか間違っているとか、そういう判断とは全く別の次元で、もううんざりなのだ。
 人間の愚かさなら虚実問わずもう浴びる程読んだし目にした。自分だって積極的に環境破壊に加担しているし、間接的に戦争行為に手を貸してもいる。けれど誰だって自分が愚かなのだと思いながら生きたくはない。人類の存在が地球にとっての癌なのだと思いながら生きたくもない。

 そんな時、プラネテスは自分が久しぶりに見付けた『不器用ながらも必死に前に進もうとする人間を描いた作品』だった。

 もしかすると、彼等が進もうとしている方向は間違っているのかもしれないし、結局は進んでいるつもりが同じ所をぐるぐる回っているだけかもしれない。しかし、果たして人類史上『誰が見ても正しい方向』を向いて迷う事無く進んで行った人間などいるのだろうか。正しいとか正しくないとか、そんなものはその時々の時代の価値観で如何様にも変わる風見鶏の様なもので、そこに重要なものは無い。あるのは『前に進む力を持ち続けられるかどうか』であって、必要以上に自分を卑下したり、生きる事に投げやりになったりせずに、自分にとっての『前』を向いて、それを目指して進む事が出来るかという事だけだ。

 難しい事だし、時に折れそうにもなる。というか自分の場合、一時期は完全に折れていた時期もある。それでも時折この漫画を読む事で何かしら自分の中で心の整理が出来た。漫画一つに大袈裟な事だと言われるかもしれないが、一期一会だな、と思う。

 ※『プラネテス』に関してはこちらに続きを書きました。



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Author:黒犬
映画と小説を主食に生きている。
地方の片隅で今日も黙々生息中。

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