冬目景『イエスタデイをうたってEX』

 EXってなんぞやと思ったら、初期短編集というか、同人誌や雑誌からの再録がメインだったり。まあ自分は、友人の某『冬目番長』氏の様に冬目さんの同人誌をもりもり買っているという訳ではないのでよしとする。これでやっと気兼ねなく『サイレンの棲む海』が読めるぜ。
 実は発売を知った時には既に初回出荷分が売り切れてたみたいで、Amazonに発注してた分もいわゆる『konozama』をかまされてしまっていた。今回買えたのはたまたま今日近所に入荷していた第2刷。まあこれはどうでもいい事だが、2回も発送延期のメールが来た時には流石にもう買えないかと思って焦った。

 冬目さんの漫画についてどこが好きなんだろうというと、もちろん絵は好きなのだけれど、特に氏の描く女性が好きなのではないかと思う。外見的にも、性格的にも。商業誌に掲載された作品で、単行本化されているものは多分全て買ったと思うのだけれど、それ位好きな漫画家だ。買っていないのは一部の画集とか。

 多分「一番好きな冬目作品は?」と言われれば『黒鉄』なんだろうと思う。個人的な趣味だけど。でも、『イエスタデイをうたって』という作品についても個人的に結構思い入れがある。

 自分は一時期、真面目に就職もしないでフリーターとしてコンビニの夜勤をしていた時期がある。魚住と同じだったのは、学生時代に一切就職活動をしなかった事だけれど、自分の場合、やりたい仕事が見当たらないというよりも、いずれまともに就職して社会人をやらなけりゃならないんだろうなという事に対する拒否感の方が強かった。それに、東京で就職してもいつか地元に帰らなけりゃならないんだろうという考えもあって、どうせ何年かして地元に戻らなけりゃならなくなるなら、それまではモラトリアムな時間を持ちたいという甘えもあった。
 だから魚住の様に『社会のはみ出し者は自己変革を目指す』という程のドラマも無く、ただ淡々とバイトをこなし、その合間に大学のゼミ室に遊びに行ったり、友人と映画を見に行ったりして遊んで過ごした。それはいつか終わる事が前提の長期休暇みたいなもので、仕送り無しで自活してたからといって胸を張れる様な話ではない。

 そんな中、同じ夜勤で働いていた奴がたまたま同じ様な趣味のオタクだった。
 そいつはミュージシャンを志していたのだけれど、イエスタデイをうたってを読んで、「バイトするならコンビニだろう」という誤った職業選択をしてしまったという奇特な奴だった。こうして偽魚住と偽木ノ下による奇妙な深夜勤シフトが始まり、それは結構長く続く事になった。こっちでは自分の方が年上だったが。
 お約束として、レジ横の募金箱を眺めながら『コレ、減ってるよーな気ィしない?』というネタ会話もした。いや、自分達は神に誓って盗ってないけどさ。

 だからだろうか。この作品を読むと、あの頃のバカやってた暮らしを思い出して懐かしくなる。

 東京には色々な奴がいた。偽木ノ下もいたし、役者を目指してたアマチュア劇団員もいた。皆夢があった。何者かになりたくてもがいていた時代があった。で、そこから途中下車して結局地元に帰って来た自分は、東京で出会った連中がどうなっただろうかなんて事をたまに考える。
 
 ミュージシャンになりたかった奴はそうなれただろうか。役者になりたかった奴は今もどこかで舞台に上がっているんだろうか。そうならいいと、心から願う。それは自分には出来なかった生き方だから。

 最後に短く本書に掲載された短編の感想を。
 この中では、自分は『石を買う』がとても気に入った。どこがって全部。今度この作品についてでも、我が友の冬目番長と語り合う事にしようと思う。

 

テーマ : 漫画の感想
ジャンル : アニメ・コミック

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Author:黒犬
映画と小説を主食に生きている。
地方の片隅で今日も黙々生息中。

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