森見登美彦『太陽の塔』

 

 この作家さんの本で初めて読んだのは、『夜は短し歩けよ乙女』だった。それも文庫版。
 自分の場合、単行本が出た時に「これは読みたい!!」と思っても、後先考えずに買ってしまうと後で収納場所に困ってエライ目に遭う事がわかりきっているので、一足先に読んだよーという人達を羨ましそうに遠目に見ながら文庫が出るまで待つ事にしている。
 過去に文庫化まで待ったのは、先に挙げた『夜は短し~』以外に村上龍『半島を出よ』福井晴敏『Op.ローズダスト』三崎亜記『となり町戦争』等。今現在文庫化を待っているのは、三崎亜記『廃墟建築士』等。

 まあそれはそれとして『太陽の塔』について。
 自分は森見登美彦という作家について明るくなかったので、『夜は短し~』のイメージのまま本作に飛び込んでしまった。今思えばそれは完全な間違いではなかったけれど、冒頭の一文からして既にしてやられた。

 『何かしらの点で、彼らは根本的に間違っている。
  なぜなら、私が間違っているはずがないからだ』

 イタタタタ。(苦笑)
 自意識過剰な学生時代を過ごした過去を持つ男なら自分の胸にグサグサ突き刺さる何かを必死で抜きながらこう叫ばずにはいられない。

 『お前は俺か!』

 いや、流石にここまで自分全肯定だった事は自分にも無いけれど。
 この小説を手短にまとめると、『ちょっと自意識過剰気味な、休学中の大学5回生にして主人公の「私」が、自分を袖にした元ガールフレンドの水尾さんとの日々に自分の中での決着を付けるまでの七転八倒の日々』である。男というのは救い難く複雑なのだ。本当に繊細で壊れ易いのは乙女心ではなく男心であり、だから願わくば世の女性陣はもう少し男に優しくして欲しい。男としての切なる願いだ。
 女性から見ると同世代の男なんて子供っぽくて異性としての魅力を感じない、なんて話もよく聞くけれど、特に最近よく聞く『草食系男子』なるものの心は間違いなくあなた方の心より壊れ易いので、くれぐれも軽くノックするくらいの気持ちで叩いてはいけない。ノックの筈がそのまま砕け散ったりする。いや本当に。多分液体窒素の中に入れた後のバラ並みに脆い。

 実際、異性に振られた時、女性よりも男性の方が引きずる率が高いように思う。昔どこかで『それは脳の機能の違いだ』なんて説明をされた時には、それが本当かどうかは知らないがとにかく感心した。
 つまり動物に例えるならば『メスはより強いオスを求める事が子孫繁栄の上で有利なので、より好条件のオスがいる場合には執着せずに乗り換える事が必要とされるが、オスは目の前にいるメスに対して執着心を持たなければ他のオスとの競争に敗れてしまうので、どうしても眼前のメスに固執する』という理屈らしい。それが人間にまで適用されるのかは知らないが、一応もっともらしく聞こえる。

 はっきり言ってしまえば、男という性は女という性より弱いんだと思う。特に現代日本では。
 でもそれだと男としては辛いので、知識や教養を身に付けたり、自分だけの趣味の世界に走ったり、仕事を通じて社会と繋がろうとしたりしながら、実は傷付き易いプライドを守っている。

 文庫版で解説を書かれている本上まなみさんに言わせるところの『へもい』(イケてないんだけれど愛らしくて憎めない、の意味)男子像。意外とそれが世の男子の本当の姿なのかもしれない。
 だから本作を読むと、特に自分の様な男は身につまされるものがある。お前は俺かと叫びながらのたうちまわり、最後の展開に涙せずにはいられない。世の『へもい』諸兄はすべからく本作を読むべきだ。そしてしかるのち、涙を拭いて立ち上がるべし。同志はここにいる。


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Author:黒犬
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地方の片隅で今日も黙々生息中。

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