凡人とは相容れない思想

 先日、『東京都青少年の健全な育成に関する条例』の改正案について思う所を書いた。ただ、書き足りない感が残ったので、今日もう一度書く事にする。日を置いて若干頭を冷やしたかったという事もある。

 自分は、このブログの名前がそうである様に、『自分は凡人である』という事を自覚してブログを書いている。自分は特別な人間じゃない。どこにでもいるサラリーマンだ。でも、そんな人間でも色々と物事を考えて日々生きている。自分の代わりはきっといくらでもいるに違いないとは思いつつ、それでも自分はここにいて、こうして何事かを考えている。こんな面倒な自意識なんて持たずに生まれて来られれば楽だったんだろうと思いつつ。

 そういう自分が、今回の様な問題で一番嫌なのは、頭に来るのは、こうした規制や検閲を考え付く人は、『自分にはそれが出来る』と信じているのだろうという事だ。自分の行いを善であると信じて疑わないだけの確信を持って、自分にはそれが出来る能力も権利もあるのだと思って生きているんだろうという事だ。

 例えば漫画でも小説でも、映画でも、こういうブログの文章でもいいけれど、検閲というのはそれを見た上で、『この表現は青少年の健全育成に対して問題がある』とか『児童ポルノに該当する』とか判断を下すという事だ。しかも今回の改正案では相当曖昧な基準で規制対象かどうかを判断しようとしている訳で、このままの基準で実際に規制を始めたとすれば、それはもう検閲官の主観がまかり通る様な粗雑な検閲が行われるだろう。というか、それ以外にあり得ない。

 改正案を出した人達は、当然そんな事は百も承知二百も合点なんだろうと思う。初めからね。それでもこういう改正案を出したという事は、それでいいんだと思っているという事だし、仮に自らが検閲官になったとしても問題なくやり遂げられると思っているという事だ。
 自らの正しさを信じて疑わないというその姿勢が、自分には許せない。いや、許せないを通り越して気分が悪い。吐き気を催す程に。

 仮に、裁判員制度の様な形で自分に検閲官の仕事が割り当てられたとする。まあ実際はそんな事は無いのだけれど、あくまで仮にね。その時、自分は誰かの創作物に触れて、それが青少年の健全育成にとって有害であるか否か、児童ポルノ的であるか否かを判断しなければならない。でも、自分は思う。

 『自分にそんな事を判断する権利があるのか』

 権利なら任命された時点で与えられているじゃないか、という安易な受け止め方は自分には出来ない。
 例えば青少年の健全育成とは言うけれど、それを判断する自分はそんなに健全な大人なんだろうか。お前はそんなに子供達に対して胸を張れる様な生き方をしている訳じゃないだろ、と自分でも思う。そういう人間が、同じく様々な事を思いながら生きているであろう人々の創作物に対して、有害無益などというレッテル張りをしていいのか。
 自分は常に自らに問う。お前の主観はそんなに正しいのか。お前のその主観的判断が社会正義とイコールであるという証明はどうやってするつもりだ。そもそも社会正義とか、大人が青少年に求めている『健全さ』っていうのは何なんだ。それは本当に正しいのか。

 社会は、大人は、お前は、自分は、そんなに正しいのか。

 自分にはとても、そこまで『自分が正しい』なんて思えない。
 創作物というものは、たとえそれが何であれ、それを生み出した人の一部だ。社会的評価を受ける様な作品も、チラシの裏の様な文章も、そういった意味では同じだ。それを否定する、有害であると判断するという行為は、どこまで許されていいものなのだろう。でも確かなのは、自分のそんな揺らぎや迷い等とは無縁に『正しく』生きていると信じる人々も確かに存在しているという事だ。そして自分は、彼等を時に羨ましく思いつつも、絶対に共存出来ない。自分と彼等とでは、生きている前提が違い過ぎる。

 自分の正しさを疑わずに生きていられる人達によって作られる『健全な社会』には、きっと自分の居場所はない。

 上手く言えないけれど、そういう確信だけはある。だから自分はこの問題に対してこんなに反発しているのかもしれない。自分にとって気味の悪い正しさを掲げて歩いて来る人々にはきっと自分の事なんて見えていないだろうと思えるから。そしてそのまま踏み潰されるのが耐え難いから。

 別に児童ポルノの話だけじゃなくて、これが拡大解釈された時、自分の書いた文章なり生み出した創作物が、青少年の健全育成の上で有害だと判断されて、多数派の正しさに踏み潰される可能性を想像してみる。その時に、もう元に戻せない程粉々にされてしまったそれを抱えて立つ自分は、どこに居場所を求めればいいのか。そんな考えを持った人間がここにいる事さえ彼等の目には映っていないのだとしても、日々は続くけれど。
 
 

テーマ : 雑記
ジャンル : 日記

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Author:黒犬
映画と小説を主食に生きている。
地方の片隅で今日も黙々生息中。

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