決別ではない別れの形・ASIAN KUNG-FU GENERATION『ソラニン』

 

 先日、友人とこんな話をした。

 『もし、人生もう一度やり直せるとしたらどうするか』

 あえて結論は出さなかったけれど「もしももう一度人生をやり直したとしても、自分自身が本質的に変わらない限りはまた似た様な地点に辿り着くんじゃないか」とは答えた。
 そもそもどういう話の展開でこんな話になったかは覚えていないけれど、ただ言えるのは、『中学生の頃の自分は「もしも人生やり直せたら」なんて考える様な大人にだけはなりたくなかった』という事だった。自分は会話の最中に頭の隅でそんな事を思いながら、あの頃の自分は今どこで何をしているのだろうなんて事を考えていた。

 もしも中学生の自分と今の自分が何かの間違いで出会う様な事があったら、あの頃の自分は今の自分に気付くだろうか。まさかこんな情けない奴になっているとは思わずに、気付かぬまま通り過ぎる様な気もするし、お互いを認められずに殺し合いになる気もする。『ソラニン』を聴き、歌詞を追いながら、そんな取り留め無い事を思う。

 『あの時こうしてれば あの日に戻れれば
  あの頃の僕にはもう 戻れないよ』

 格好良く生きられない僕等は、沢山の後悔を抱え込んで生きている。あの時こうしてれば。あの日に戻れれば。数多くの失敗と、伝えられなかった言葉を飲み込んで生きている。
 『過去になんて戻りたくない。今の自分が最高だから』と言える人は素晴らしい。でも、そう言い切れない者の上にも等しく明日は来るし、時は過ぎる。その中では当然誰かとの別れもあるだろうけれど、自分との別れもきっと含まれている。

 唐代の詩人、于武陵の詩『勧酒』の結句を『「サヨナラ」ダケガ人生ダ』と訳したのは井伏鱒二だった。『さよならだけが人生だ』という言葉はあまりにも有名で、もう詩を離れて一人歩きしているけれど、だからこそ漫画『ソラニン』の種田もまたその言葉を知りつつ、こう思ったのかもしれない。

 『さよならだけの人生か』

 別れには色々な形があって、時には互いに背を向けて振り返りもせずに別れる様な決別もあれば、別れたくなくても別れなければならない惜別もある。自ら選んだ別れもあれば、誰かに突き付けられた別れもある。当人同士以外の周囲の状況に引き離される別れだってある。

 自分は思う。『あの頃の僕』は今頃どうしているだろう。

 同じ道を歩いていた筈の自分から別れて行った自分。もしくは今の自分が置き去りにした自分。どちらが先に道を違えたのかはわからない。でも不思議とそんな自分達がもう消えて無くなってしまったとは思わない。
 だから時々、今の自分の有様を過去の自分に対して申し訳なく思う事がある。過去の自分が一番嫌った大人の姿は、毎朝鏡の向こう側から自分を見返している。苦笑いの表情まで同じに。心底嫌になるけれど、それでもまた次の朝は来る。そしてそれと同じくらい確かなのは、今の自分はそうやって自分との別れを繰り返して来た結果としてここにいて、これからもそうやって生きて行くんだろうという事だ。だから自分から自分へ言える事は『ソラニン』の歌詞にもある様に、こんな事しかない。

 『さよなら それもいいさ
  どこかで元気でやれよ
  さよなら 僕もどーにかやるさ
  さよなら そうするよ』

 元の歌詞には無い程、何度も繰り返されるさよならの言葉。決別の言葉ではなくて、互いに送るエールの様に。
 「さよなら。どこかで元気でやれよ。自分もどうにかやるさ」と、無理矢理に言ってみる。昔の自分に向けて。そう言いながらも、本当にどうにかやれるかどうかなんて分からないけれど、でもそう言うしかない自分が、どうしようもなくここにいる。

 

テーマ : ASIAN KUNG-FU GENERATION
ジャンル : 音楽

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すごい共感しました。

> さん

コメント、ありがとうございます。
このブログは自分に対しての覚書というか、「自分はこの時、こんな事を思って生きていた」という事を、自分の記憶が風化してしまう前に記録しておこうという目的で始めました。言ってみれば、今はまだここにいるけれど、数年後には『あの頃の僕』になってしまうであろう現在の自分が、未来の自分に対して書き残す言葉ですね。とはいえ、実はそんなに頻繁に読み返す事はしないのですが。

今回コメントを頂いた事で、もう一度自分の書いた文章を読み返しましたが、この時の自分もある意味ではもう『あの頃の僕』になりつつあるのかもしれません。もう戻れない『あの頃の僕』に。それは少しだけ悲しい事ではあるのですが、それでも「共感した」という言葉を頂けた事は『あの頃の僕』にとっても、今の自分にとっても嬉しい限りです。本当に。
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Author:黒犬
映画と小説を主食に生きている。
地方の片隅で今日も黙々生息中。

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