謎という名の祭りに集え・越前魔太郎『魔界探偵 冥王星O ウォーキングのW』

 出版業界が不況だと言われ始めてからもう随分経つ。曰く若者の活字離れだとか、テレビゲーム等の台頭だとか、携帯電話の利用料が若年層の小遣いを奪っているからだとか、単純に面白い作品が無くなったからだとか、その理由については好き放題言われているが、確実なのは本も含めてあらゆる物が売れない現状で、それでも物を売ろうとするなら、それが革命的な新商品や歴史に残る傑作でもない限りは何らかの仕掛けをしなければならないという事だ。このご時世、ただ放っておいても売れる様な商品はなかなか無い。

 本作もまた、作品の内容以前にその『仕掛け』が注目される作品ではある。
 まず、出版社とレーベルを横断して、複数レーベルから作品が出版される事がアナウンスされている事。本作はアスキー・メディアワークスの電撃文庫から出版されたが、同時に講談社ノベルスから『魔界探偵 冥王星O ヴァイオリンのV』が刊行されており、更に6月からは電撃文庫MAGAZINEでの掲載と講談社ノベルス及びメディアワークス文庫での出版が順次開始される。複数レーベルから同一シリーズの作品が出版される事について、ライトノベル業界では似た様な前例が無い訳でもないが、これも一つの話題作りではある。
 
 更に、著者を謎の覆面作家『越前魔太郎』とする事で、その正体は誰かという遊びも提供している。全く無名の新人か、はたまた有名作家の別名か。複数の作家が参加している可能性も高いが、電撃文庫も講談社ノベルスも、筆者によるあとがきすら載せないという徹底ぶりだ。その代わり、ネット上でインタビューが掲載されている様なので、興味のある方は見てみるのもいいかもしれない。まあ正体を推理する上では何の役にも立ちそうにないけれど。

 それにしても『越前魔太郎』って誰の命名なのかと。まあ強烈な個性があって憶え易いのは確かだけれど、インパクト的には『コンバット越前』には負けるかな。響き的には『舞城王太郎』みたいだけど……とか言ってたら仕込んでいたのは本当に舞城王太郎氏だったらしい。
 舞台と映画で展開される作品『NECK』の原作を書いたのが舞城王太郎氏。その劇中にも越前魔太郎が登場するという。となると越前魔太郎の名付け親は舞城王太郎氏という事になるのだろうか。ここまで来ると、メディアミックスというよりも祭りの様相だ。話題作りとしては申し分ない。

 そして、やっと肝心の作品それ自体について。前置きが長過ぎた。
 
 帯には『純白の青春ホラー』とあるけれど、読んだ限りではホラー要素は薄い。むしろ、『彼ら』と呼ばれる、特異な能力を持った人に在らざる存在からの依頼によって動く魔界探偵『冥王星O』と、本人達はそれと知らず事件の渦中に踏み込んで行く小学生三人組のストーリーが交錯するミステリーとしての側面が強い。両者の視点が切り替わりながら物語は進み、最後には……というところで、後は実際に読んでもらった方がいいと思う。自分はこれから講談社ノベルスの方に取り掛かる予定。

 

テーマ : 本の紹介
ジャンル : 小説・文学

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地方の片隅で今日も黙々生息中。

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