【彼ら】は偏在する・越前魔太郎『魔界探偵 冥王星O ホーマーのH』

 本シリーズ全体の概要や同一シリーズの他作品についてはこちらこちらに。

 本シリーズでは【彼ら】と呼ばれる異能の存在が人間社会の裏側に存在し、その暗部に踏み込んでしまった人間がその人生を翻弄される姿が描かれる。本作でもまた様々な異能者が登場し、主人公である【冥王星O】を追い込む。

 【右手を隠す男】【傅く女】【涙を流す女】

 この様な通り名で呼ばれる【彼ら】は皆、人外の能力を持つ。ある者は生まれながらにして。ある者は人間でありながら【彼ら】によってその様な存在に作り変えられてしまった事によって。そしてまたある者は【彼ら】と人間の混血として生まれた事によって。

 そんな中で、【冥王星O】は正真の人間である。その、何の異能も持たない人間が【彼ら】と対峙しなければならないという理不尽さは、物語全体を通じて何度も読者の前に提示される。しかし、それを荒唐無稽な物語として笑い飛ばす事が出来ないのは、彼の姿が社会の中で翻弄される凡人の姿と重なるからだ。

 この現実社会に【彼ら】の様な存在はいない。しかし、或いはそれよりも理不尽な権力の行使や、個人が抗い得ない社会情勢の変化によって日々自分達の生活は左右されている。言ってみれば、巨人の足元で生きる蟻の様なものだ。巨人が一歩その足を踏み出せば、蟻は為す術も無く踏み潰される。踏み潰した側にはそんな意志など無かったとしても。もしくは、単なる戯れであったとしても。
 そんな力の前では個人のささやかな人生など吹けば飛んでしまう様な代物でしかない。その事実を、この作品は【彼ら】という存在に投影してみせる事によって繰り返し抉る。

 そしてその中で【冥王星O】は足掻く。力を持たざる者として、自分に許されたあらゆる手段を行使してその理不尽に抗う。騙し、煽り、奪い、騙り、謀り、嗤う。それが凡人が生きるという事であり、その綺麗事ではない、手段を選んではいられない無様さこそが、現実を生きる自分達の姿と重なる。

 『【彼ら】はいる。存在し、伏在し、偏在する。それが事実だ。』

 この言葉を否定する事は、自分には出来ない。蟻になった気持ちで、そんな事を思う。

 

テーマ : 本の紹介
ジャンル : 小説・文学

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