日常を超えていくマジック・ASIAN KUNG-FU GENERATION『マジックディスク』

“夕方のニュースで何処かの誰かが亡くなって
 涙ぐむキャスター それでまた明日
 そんなふうには取り上げられずに僕らは死ぬとして
 世界は続く 何もなかったように”
  『新世紀のラブソング』

 音楽というか、歌というものが不思議なのは、一見暗い、ネガティブなイメージを抱かせる歌詞であっても、そこにメロディーが付加される事で全く違うメッセージを持たせる事が出来るという事だ。そこでは希望の裏に諦めや苦しみが見え隠れする事もあれば、絶望的な日常の裏側に微かな希望が転がっていたりもする。音楽というものに全く詳しくない自分が思うに、それこそが歌というものが持っている一つのマジックだ。

 そういう意味で、この『マジックディスク』は、多分もうどうしようもない自分達の日常から、何とかして希望を拾い集めようと挑んだ結果に思える。世の中が行き詰まっている事とか、先行きが不安な日常とか、そんな事をただそのまま「悲しいね」なんて言って悲観していれば良かった時代は既に過去のもので、この国で新世紀を生きる自分達はそれを前提として受け止めた上で何とか生きて行かなければならないのだから。

“「将来の夢を持て」なんて無責任な物言いも
 1986に膨らんだ泡と一緒に弾けたの

 「何もないです」
 それで「ロスト・ジェネレイション」か
 忘れないで
 僕らずっと此処でそれでも生きているの
 息しているよ”
  『さよならロストジェネレイション』

 もちろん、そんな抵抗をしているのは誰だって一緒で、アーティストだからとか、サラリーマンだからとか、そんな事は関係無い。誰だってそうして生きて行かなければならない『今』の中で、それでも何とか日常から希望を拾うなんていうマジックを成功させる為には、相当の労力が必要だ。
 このCDの初回限定版に付いている、彼等のレコーディング風景を収めたDVDを見ていると、「ただ集まって音を鳴らして、何となく歌った奴を一発録りして終了」みたいな勢いに任せた事をやっている訳ではないという事がよくわかって面白い。わざわざニューヨークまで行って、慣れない異国の地で執拗にパート毎のレコーディングを繰り返して、それを合わせた上で最終的にMIXして自分達の望む音を作って行く。何せこのメイキングだけで1時間近く収録されている訳で、実際にこのCD一枚にどれだけの労力が費やされているか考えると結構感心する。

 それは繰り返す毎日の中で、自分達が何とか前向きに生きて行く為の方法探しをしている姿にも似ている。そこまでやっても報われるかどうかは分からないという所までそっくりだ。「CDが売れない」が音楽業界の枕詞の様になって久しい今日では。

 いつまでそんな事を続けていられるのか。自分はどこまで行けるのか。そんな事を不安に思いながら、でも途中で投げ出してしまう訳にも行かなくて、自分達は何とか生きている。遠くにある筈のゴールは見えなくて、でも道は続いていて、足を止める事も出来なくて、さてどうしたものかっていう。それでもいつか抱いた微かな願いの様なものだけが、その残滓だけが、自分達を何とか前に進ませている。

“誰の身体もいつかなくなって永遠はないのだろう
 それだって君の魂とどこか繋がっていたいと僕は思うよ
 そう願うよ”
  『青空と黒い猫』

 永遠はないのだろう。本当に。大事な事とか、捨てたくない何かとか、そんなものを必死に守ろうとしていたって、いつかそれらは消えてしまうのかもしれない。でも、それでもそんな大事な何かとどこか繋がっていたいと自分達は願う。その願いだけはきっと消えないもので、例えば自分がこのCDをもう聴かなくなってしまって、彼等もバンドを解散してしまう程に時間が流れたとしても、自分も彼等もどこかでまだそんな願いを胸にそれぞれの場所で生きているのだろう。
 それでどこまで行けるかは見えないとしても。それがいつまで続くかは分からないとしても。

 

テーマ : ASIAN KUNG-FU GENERATION
ジャンル : 音楽

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