あなたの生に使命はあるか?・ゲイリー・ウィッタ脚本、尾之上浩司編訳『ザ・ウォーカー』

 自分は普段、映画のノベライズをあまり読まない。小説が映画化された場合は別として、映画が先にある場合には映画そのものを観て楽しむ方が好きだからだ。だから今回この本を読んだのはまあ気まぐれの部類だと思う。ちなみに、映画は見ていない。近くでやっていれば行きたいのだけれど。

 最終戦争によって文明社会が崩壊した未来。僅かに生き残った人々の中で、ある者は水や食料を求めて放浪し、またある者は暴力によって他者から奪い、またある者はならず者を従えて街に君臨する。法と秩序は脆くも崩れ去り、国家は瓦解した。
 そんな中、生存者の一人であるイーライは、自らに与えられたある使命を果たす為、ただひたすら西を目指して歩き続ける。一冊の本を手にして。

 自分は日本人だからかもしれないが、この手の『使命』という奴が今ひとつピンと来ない部分がある。この作品の舞台は文明崩壊後のアメリカなので、当然イーライもアメリカ人なのだろうけれど、彼や他の登場人物達の感覚は自分からするとちょっと異質だ。

 大体、ちょっと考えてみて欲しい。『文明崩壊後の世界』と言葉にすればそれまでだが、要するにそれがどんな世界かと言えば、一番解り易い例えで言うと『北斗の拳』の世界だ。荒れ果てた世界で農耕等の生産的な活動をする者は殆どおらず、生き残った人間の中で暴力に秀でた者は手っ取り早く他者から奪う生き方を選ぶ。そして連鎖する暴力の果てに、ならず者達の中で上位に上り詰めた者が権力を手にする。弱肉強食と言えばそれまでだが、そんな世界の中で何より優先されるのは『生存』であって他にない。
 そんな「ちょっと目を離すとバイクに乗ったモヒカン野郎が得物を片手に爆走して来そう」な世界で、自分の生存よりも優先されなければならない様な崇高な使命などというものが存在し得るか。

 『存在する』

 そう言い切ってしまうのがこの映画であり、そのノベライズである本作だ。

 自分はこれを読んで苦笑したのだけれど、本作を作った人々はやはりその『使命』を、そしてその使命を自らに与えてくれる存在を信じているし、信じたいのだろうと思う。その切実さ、必死さが作品の熱量となっている事は確かだ。だがしかし、それでも自分が彼等の信じる価値観に馴染む事が出来ないのは、日本人とアメリカ人のメンタリティの差なのか、自分個人の感性の違いなのか。興味深いけれど、答えを出す事は難しい。

 そして、似た様な世界観を持ちつつも、本作とは全く異なる空気を漂わせるもう一つの作品を読んだので、そちらに関しては次回にでも。あくまで予定だけれど。両者を対比させるとまた面白いと思うから。

 

テーマ : 本の紹介
ジャンル : 小説・文学

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地方の片隅で今日も黙々生息中。

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