多分消えて行くだけの僕らも・平野耕太『ドリフターズ』

 平野耕太氏といえば、代表作である『HELLSING』の内容からも分かる様に、痛快なアクション漫画を得意とする作家だ。でも、単純に何も考えなくても読めるアクション漫画としての面白さだけではなくて、テーマを深読みしようと思えば出来るだけの強度の様なものが平野氏の描く漫画にはある様に思う。まあ単純に自分が理屈っぽいだけだとも言えるが。

 というわけで、『ドリフターズ』だ。
 この漫画は、異世界に召喚された歴史上の人物達が各々の勢力に分かれて戦う姿を描くという、平たく言えばオールスターバトル的な様相を呈している。似た様な設定の作品もあるにせよ、アクション漫画としてここまで何でもありの展開を持ち込む事も凄いと思う。
 何せ、主人公の島津豊久が異世界に流れ着いた先で出会うのが織田信長と那須与一という時点でもう相当に壊れているが、洋の東西や時代を問わず世界中から召喚される登場人物達は当然個性的な連中ばかりで、彼等の掛け合いを見ているだけでもなかなか面白い。

 しかし、ここでもう一つ面白いのは、例えば織田信長本人は後の世がどうなったか知らないが、それ以降の時代を生きていた島津豊久は信長亡き後の織田家がどうなったか知っているという事だ。だからこそ、それを聞かされた信長は呟く。

 『ははは 人間50年ってか』
 『俺の50年は 全部無駄か』

 漫画とはいえ、残酷な現実ではある。
 天下取りに命を掛けた事、数多くの敵を屠った事、その中で起きた様々な出来事。それら全てが『過去』として葬られる場所で、彼等は何を思うのか。

 自分達にとって歴史上の人物達の多くが歴史年表の中の存在に過ぎないのと同じ様に、自分達の生もまた遥か未来から振り返れば取るに足らないものなのだろう。歴史に名前を刻んだ人間ですらそうなのだから、これはもう間違いない。その点において自分達と彼等は平等だとも言えるが、それを受け入れる事は辛い。
 だが、『ドリフターズ』はそこで終わらないし、終わらせない。

 どうやら歴史にとって自分の人生は無駄だったらしい。自分が燃やした情熱も、目指した目標も、抱いた夢も、後の世では埋もれてしまった。そこに広がるのは自分が思い描いたものとは全く異なる未来で、既に過去の存在と化した自分にはそれを否定する事も出来ない。

 では、それでも『今』ここで生きている自分はどうするのか。

 自分が生きた時代ではない。自分が産まれた世界でもない。見ず知らずの世界に自分の意志とは無関係に叩き込まれ、帰る場所もなく、待つ人もいない。挙句人生は無駄だったと思い知らされ、全てを失ったに等しい。だが、それでも呼吸を止めない自分自身をどうするのか。生きる事を投げ捨てられない自分自身にどうやって報いるのか。

 答えはきっと驚く程単純なのだろう。現実を生きる自分達もまたそうである様に。
 恐らく自分達はもう、その答えに気付いている。

 

テーマ : 漫画の感想
ジャンル : アニメ・コミック

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地方の片隅で今日も黙々生息中。

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