世界は二人の為に・藤原祐『煉獄姫』

 藤原祐氏の作品は、デビュー作の『ルナティック・ムーン』から始まって、現在文庫化されているものは全て読んでいる。時にダークファンタジーと呼ばれたり、伝奇小説の体裁を取っていたりと世界観はシリーズ毎に異なるのだけれど、一貫して言えるのはバトル物であると同時に恋愛小説でもあるという事だ。

 藤原氏を恋愛小説家だと定義するのは結構力技かもしれないが、各シリーズを毎回読んでいると必然的にその印象は強くなる。確かに世界設定やキャラクター設定には毎回独特のダークさというか、容赦の無さがある。それは荒廃した世界観だったり、キャラクターの出自や置かれた環境の酷さだったり、彼等を取り巻く運命の過酷さだったりするのだが、時に登場人物が容赦無く死ぬ様な作品であっても、最終的にはそれも主人公とヒロインの関係性を、有り体に言えばその恋の行方を描く為だけに用意されたものである様な感覚がある。

 本作もまた、その世界観は主人公とヒロインの為に構築されている。本作はいわゆる剣と魔法の世界で、ファンタジー小説の例に漏れず魔法に関する設定等も細かく練られているのだが、その設定も全ては二人の為だけに用意されたものだと言っていい。細かい設定についてここで語る事は可能だが、極論すればそれに意味はない。
 比喩ではなく、正に藤原作品では『世界は二人の為に』存在する。だから語るべきはその世界観のダークさといった部分ではなく、その作品の中心に位置する二人についてという事になるだろう。では本作におけるその二人とは誰か。

 一人は『お姫様』だ。彼女は生来の特質によって『煉獄の毒気』と呼ばれるものを身体から放出し続ける為、近付く者の生命を無差別に削り続けてしまう。彼女に近付く者、彼女に触れようとする者は例外無く死ぬ。一部この毒気に対して強い耐性を持つ者もいるにせよ、それとて程度の差でしかなく、やがては寿命を削られて死に至る。
 他者の存在しない牢獄の様な部屋。身の回りの世話をする者も死の危険から立ち入る事が出来ないその場所に彼女は幽閉され、たった一人で生き続けて来た。『彼』が現れるまでは。

 もう一人は『騎士』だ。彼は『お姫様』が背負う過酷な運命の中にあって、ただ一人の『例外』である。煉獄の毒気に対する完全耐性。それが彼が持つ能力であり、彼はそれによって世界でただ一人彼女に触れる事を許された存在だ。
 国や王にではなく、たった一人の姫に仕える騎士。それが彼の役目であり存在意義だ。
 これだけ書くと、男に都合の良い設定に聞こえるだろうが、この騎士にもまた、そうならざるを得なかった理由がある。だからこそ、彼が生きる理由はもう彼女の中にしか存在しないと言っていいのかもしれない。

 二人は互いに依存している。無理もない。この世界で二人の居場所は互いの隣しかない。そうなる様にこの世界は、そしてこの二人は最初から仕組まれている。しかし、だからといって彼等の間に何の障害も無いかというと、藤原作品では数多くの困難が待ち受けている事が常だ。
 ではその困難とは何か。それはまだ定かではないが、確かなのは、それを乗り越えられなければこの二人には未来がないという事だ。二人の為の世界は、彼等の為に作られているからこそ、その挫折を許さない。

 立ち止まる事も、挫折し崩折れる事も許されない世界で、彼等は恐らくこれからも互いの為に全てを捧げて生きるしかないのだろう。その事を過酷な運命と捉えるか、むしろ世界から二人の恋への屈折した祝福と捉えるか。恐らく後者なのではないかと自分は思う。

 

テーマ : 本の紹介
ジャンル : 小説・文学

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地方の片隅で今日も黙々生息中。

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