福井晴敏『テアトル東向島アカデミー賞』

 映画について語る時に、それは色々な切り口があり、語り方がある。

 ある人はもう徹底的に作品を貶す。つまらない、下らないは当たり前、駄作と斬って捨てる事に何のためらいもない。しかもつまらないなら人に薦めなければいいものを、『酷いから観てごらん』等と言ったりする。お前は作品を薦めたいのか貶したいのか。
 『その酷さを共有したい』という事なのかもしれないが、映画好きには違いないんだろうけれどちょっと愛情表現が屈折している。でも自分の場合も買ったゲームが酷いクソゲーだった時とかはどれだけ酷いかという体験を他人と共有したくて語りまくったりするので人の事は言えない。

 ・・・話を戻そう。

 またある人は徹底的に作品を褒める。どんな映画でも良い所があり、そこを発見する事が映画ファンの本分なのだと信じて疑わない。どんな映画でもその良い所を物凄く膨らませて語ってくれるものだから、語られる内容だけを聞いているとその作品が百年に一度の物凄い傑作であるかの様な錯覚に陥る。で、信用してレンタル店で借りて来たりすると、これが自分にとってはそんなに言う程のものでもなかったりしてちょっと拍子抜けする。

 こうした映画に対する姿勢の違いだけではなく、個人の趣味嗜好によって同じ映画を観た場合でもその映画体験というのは千差万別で、普遍的な映画批評等という都合の良いものはそうそうありはしない。

 ならば、自ら作家としてベストセラー小説を執筆する様な人は映画をどの様に鑑賞し、どの様に語るのだろう。というわけで、作家・福井晴敏による『偏った』映画批評がてんこもりな『テアトル東向島アカデミー賞』である。
 結論から言ってしまうと、彼の映画の趣味は明らかにオタクのそれだった。いい意味でも悪い意味でも。自分が初めて読んだこの作家の著作は『亡国のイージス』だったが、その時から感じていた所謂『同類臭』は間違いないものだったと言える。
 大体が、『小説すばる』で作家として映画批評を連載するにあたって、通常の神経であれば『平成ガメラ三部作を三ヶ月連続で紹介する』等という事は考えられない。『宇宙船』で連載するなら話は変わってくるだろうが。
 当時小説すばるをリアルタイムで読んでいた読者はまさか三ヶ月にわたってガメラ話を聞かされるとは思っていなかったに違いない。

 他にも『機動警察パトレイバー 劇場版』だの『機動警察パトレイバー2』だの『AKIRA』だの、観ている映画がことごとく自分と被るので、思わず『お前は俺か!』と叫びつつ、『好きな映画について語って金が取れるなんて、作家って何て素晴らしい仕事なのかしら』と現実逃避してしまった。現実には作家というのもそれはそれは大変な仕事なんだろうけれど。

 自分がそんな福井氏の映画批評について評価したい点は、『映画を過度に貶さない』所にある。
 つまらないとか意味が無いとか制作費の無駄とか、もっとストレートに駄作とか、映画を貶す言葉は数多くある。もちろんそんなに毎回毎回自分の中でのヒット作に出会える訳でもないから、時にはつまらない思いをする事もある。でもそういう映画について語る事は極力避け、『そんな事よりこっちに面白い映画があるんですがね』とプラスの話題を選ぶ。そういった他者の作品に関する敬意というか、その姿勢が、『ああ、この人も作家さんなんだな』という気がした。

 批評が単なる悪口にならない様に、自分も気を付けないとね。


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Author:黒犬
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地方の片隅で今日も黙々生息中。

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