欺瞞が剥がれ落ちる時に・土橋真二郎『生贄のジレンマ<上>』

 “『あなたたちは今日の午後三時に全員死にます』”
 “『これは決定事項なんです。午後三時をもって死んでしまいます』”
 “『ただし、生き残る方法もあります、それは生贄を捧げることです』”

 卒業を間近に控えた高校三年生。その一学年8クラス全てを対象にしたデスゲームがこの作品のストーリーだ。校庭の中央に掘られた、底の見えない丸い穴。そこに自発的に『生贄』が身を投げるか、或いは生贄志願者が現れなかった場合はクラス投票で生贄を選出する事。それが彼等が生き残る為のルールだ。もしも『生贄』が現れず、投票による選出も出来なかった場合は全員が死ぬ事になる。最初は冗談だと思っていた彼等だったが、最初の犠牲者が出た事で事態は緊迫して行く。

 さて、こういうデスゲーム系の小説だが、何故か今の日本では次々に出版されている。次々に出版されているという事はそれだけヒットしているという事だから、一定の需要はあるのだろう。更に小説のみならず、映画やドラマ、漫画等も入れるとかなりの作品が世に出ている事になる。それにしても何故このジャンルがこんなに人気なのか、何だか不思議な気もする。
 同ジャンルの日本での火付け役はやはり高見広春氏の『バトル・ロワイアル』になるのだろうが、あの作品が出版され、映画化された当時の大騒ぎ(残酷描写の是非が国会討議される等)からすると、現状は既にある意味で一般化したというか、物語の一ジャンルとして認識される様になったのかなとも思う。読む人を選ぶジャンルではあるのだろうけれどね。一時は『悪趣味だ』として相当叩かれた時期もあるし。

 自分はといえば、実は小説ではあまりこの手の作品を読んでいない。どの程度読んでいないかというと、自分はスティーヴン・キングが好きなので、氏がリチャード・バックマン名義で出版した『死のロングウォーク』は前々からいつか読もうと思っているのだけれど、それすら実はまだ読んでいない位だ。聞くところによると面白さは保証付きらしいのでいつか読もうとは思っている。『バトルランナー』も映画で見たっきりだし。
 逆に映画ではこの手の作品を好んで観ていて、中でもヴィンチェンゾ・ナタリ監督の『CUBE』とCUBEのDVDに収録されていた、同監督のエレベーターを舞台にした短編『ELEVATED』は突出して好きだったりする。次点はデスゲームというジャンルからは若干ずれるのかもしれないが『SAW』シリーズの第一作目と、このブログでも以前感想を書いたオリヴァー・ヒルシュビーゲル監督の『es』

 さて、何故人はデスゲームを(あくまでも虚構の物語として)面白いと感じるのだろう。残酷描写とか、怖いもの見たさとか、単純にそういう作品が好きな奴の趣味が悪いだけとか、色々な事が考えられる。こういう物語に全く興味がない方からすると本当に理解不能だろうなとは思うが、自分の様に積極的にこれらを摂取している人間から言わせて頂くならば、それは生きるか死ぬかという極限状態に追い込まれた時に『人間の本性』が垣間見える、その欺瞞が剥がれ落ちる瞬間が好きだからだと言える。

 全ての嘘を許さない程自分は潔癖な人間ではない。むしろ普段は積極的にそれを利用してもいる。本音と建前というのがいい例だろう。けれど、そうやって本音と建前を使い分けながら『社交的な人間』であろうとするのは、つまるところ相手を慮ってそうするというよりも、単純にそうした方が自分に利益があるからでしかない。ただ、そういう『利己的な自分』を意識しながら生きる事は精神衛生上良くないので、そこに色々な理由を付けて自分を正当化し、悪く言えば自分自身を騙している訳だ。

 自分の汚さや利己的な部分を凝視しながら生きて行きたいなんていう人はいないだろう。だから自分達は欺瞞という衣服を幾重にも身に着けて、自分の汚い部分が自分自身や人様から見えない様にしている。
 しかしデスゲームという命懸けの局面では、そんな事をしている余裕は無い。死ぬのが嫌なら他人を陥れてでも自分が生き残る方法を探さなければならない。だからそこで人は自分が本来どういう人間だったかという事を思い知らされる。そして一度自分の本性を思い知った後でどうするかという事が問われる。
 自分の中の欺瞞に気付きつつもなお人道的に生きようとするのか、それとも欺瞞を脱ぎ捨てて利己的な自分を剥き出しにするのか。デスゲームという極限状態は人を試す。自分はそんな人間の本性を見たい為にこの様な作品を好むのだろう。

 さて、本作は上巻であり、今後中巻、下巻が刊行されるとの事だが、このデスゲームを『誰が、何故、何の為に仕組んだか』という謎に対して作者がどの様な回答を用意しているのか楽しみにしたいと思う。

 

テーマ : 本の紹介
ジャンル : 小説・文学

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地方の片隅で今日も黙々生息中。

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