約束された幸福へ向けて・藤原祐『煉獄姫 二幕』

 一巻の感想はこちらに。
 前回書いた通り、この作品は主人公である二人、呪われた出自を持つ姫・アルトと、彼女の騎士たるフォグの二人の為だけに存在する。二人の関係性をより深く描く事。その為に全ての事件は起き、全ての登場人物は生き、或いは死ぬ。そういった意味で本作はある種非情で容赦の無い恋愛小説と読む事も出来る。

 藤原氏の作品は、登場人物が容赦無く死ぬ事や、独特の黒いストーリー、また欝展開の多さ等から『暗黒ライトノベル』と評される事もある。というか藤原氏は『全日本暗黒ライトノベル連合』なる組織の『特攻隊長』に任命されている強者である。まあ特攻隊長といっても誰に、何に、何処に特攻するのかは謎だが。そもそも特攻って何だよ。ちなみに同組織の『初代総長』は浅井ラボ氏。さもありなん。

 さて、上記を踏まえた上でだけれど、自分は藤原氏の著作を読んでいて、確かに話の展開は黒い部分もあるし、登場人物は容赦無く死ぬし、しかもその死に方がいちいちエグイとは感じる。しかし不思議と『暗黒ライトノベル』と呼ばれる程の救えなさを感じる事はまずない。むしろ本作のアルトとフォグがそうである様に、恋愛小説として藤原作品を読むとするならば、そこには分かち難い二人の結び付きがあり、安心して読んでいられる位だ。何せ最初から二人には互いの隣以外に居場所がない。世界中の何処を探したとしても。

 何を、誰を、どれだけ犠牲にしようが、この物語の結末はまず揺るがないだろう。二人は最後には結ばれるべくして結ばれるだろう。その途中に築かれる屍山血河など、二人の門出を祝う為の彩りであり、予定された供物に過ぎない。もちろんそこに到るまでの試練はある。あるのだが、それもまた黒い予定調和の中に回収される為のものに過ぎない。それはつまり生きる目的や意味とか、自分の存在証明とか、自己実現とか、そういった一般人が陥り易い悩みを一切抱かずに生きて行けるという事で、その点では二人は恵まれているとさえ言える。二人は互いの為だけに生きていれば良い。世界はその二人の為の舞台装置として機能しさえすれば良い。現実には不可能な事を描いてみせるのが物語の一つの側面だとすれば、これもまた一種の夢物語だ。その色合いは若干黒いとしても。

 本作を暗黒ライトノベルと定義するならば、その『暗黒』はきっと、主人公とヒロインが結ばれる為に、その途上の物語の中で肉体的に、或いは精神的に死んで行く事になるその他大勢の登場人物達の上にかかっているのだろうと思う。まあ自分の様な奴は間違いなくそちら側、暗黒に飲まれる側の人間だろうとは思うけれどね。

 

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ジャンル : 小説・文学

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