埋葬された物語への哀悼・押井守『番狂わせ 警視庁警備部特殊車両二課』

 買おうか買うまいか散々悩んだ挙句、結局買って来た。
 さて、その昔『機動警察パトレイバー』というアニメ作品が存在した。今ではもう廃れ切ったジャンルであるOVA、所謂オリジナルビデオアニメとしてスタートしたこの企画は、ゆうきまさみ氏が描いた漫画や本著の著者である押井守氏が監督を務めた劇場アニメ等、数々の作品を世に送り出す事となった訳だが、その歩みについては長文化するのでここでは割愛する。

 自分は押井守氏が関わった作品が総じて好きであり、そのウンチクを語り倒す様な独特の作劇も気に入っているが、その作品の中で唯一引っかかっているのが『機動警察パトレイバー 2 the Movie』だ。それは作品のテーマや脚本がどうこうという話ではなく、押井氏がこの作品によって機動警察パトレイバーという作品を完膚無きまでに『終わらせて』しまった事による。作品それ自体は自分も好きなのだけれど、この一点がどうしても自分の中ではしこりとして残る。

 機動警察パトレイバーシリーズはそもそもOVAやTVアニメ、漫画や小説等、様々なジャンルでメディアミックス展開をしており、その設定等が微妙に異なる、パラレルワールド的な広がり方をしていた。しかし、劇場版第二作目で特車二課の終焉を描いてしまった事で、その後のシリーズ展開は望めない状況となってしまった。その後外伝的作品である『WXIII 機動警察パトレイバー』が劇場公開されはしたものの、それは特車二課の面々が主役となる様な物語ではなかった。彼等の物語は既に前作で終わっていたからだ。
 もちろん、時間軸をずらす事で、再び彼等の活躍を描く事も出来るのだろうけれど、何をどうやっても最後に待っている結末は覆らない。そしてパラレルワールドの出来事として完全に無視し、無かった事にしてしまうには『パトレイバー2』という作品はその存在感が大き過ぎたし、異質過ぎた。

 さて、その様な形で一度はパトレイバーシリーズを『埋葬』した押井氏が、再び特車二課の物語を書くという事がどの様な事情によるのか。自分には皆目見当が付かないが、その行いは埋葬した遺体を掘り起こしてゾンビとして復活させ、事が済めばまた墓穴に埋葬する行為とも取れる。それは『機動警察パトレイバー』という作品に思い入れがある人程、逆に本作を楽しめないという可能性を孕んだ行為であり、実際その通りの結果になるだろう。自分がそうだった様に。

 ここでは作品を批判しないという事を一つの縛りとしてやって来たが、今回はパトレイバーシリーズも押井氏も好きであるが故に、その縛りを破る事にする。本作を気に入ったという方は、以下を読む必要はないので退避推奨。

 さて、一応の断り書きを入れた所で、良いだろうか。
 本作の時間軸は「問題の」劇場版第二作目の後に位置する。かつての特車二課第二小隊のメンバーは後藤隊長を含め全員が埋立地を去った。新たに主役となったのが男性で、しかも名前が『泉野明(いずみのあきら)』という時点で筆者の悪意というか悪ふざけの度が過ぎる様に感じるが、その他にも新たに赴任している第二小隊長が後藤のコピーである『後藤田』だったりする辺り、狙ってやっているのだろう。他にも進士幹泰のコピーの『御酒屋』、香貫花のコピーの『香貫子』、太田のコピーの『大田原』等、シリーズのファンからしてもちょっとどうかと思う様な登場人物達が揃っている。受け手にとって困るのは、これが部外者の書いた同人誌ではないという事だ。ちょっと頭を抱える。偏頭痛もする。

 主人公の泉野は性格設定からすると篠原遊馬そのもので、彼が後藤田隊長の策略で翻弄される様は劇場版第一作目の後藤隊長と遊馬の立ち位置と何ら変わらない。それならば何も登場人物を変える事はない筈なのだが、再び特車二課の物語を書くにあたって、各キャラクターのデッドコピーを用意しなければならなかった辺り、押井氏の中でも既に『機動警察パトレイバー』という作品は終わったものという位置付けなのだろう。

 更に、押井氏は常々『レイバー』の有用性について懐疑的な発言をしている(『押井守・映像機械論「メカフィリア」』等参照)のだが、これを本作中で二代目整備班長となったシバシゲオに語らせる辺り、「よりによってシゲさんに語らすのこれ?」という気がしないでもない。まあ『ミニパト』でもやってたけども。
 レイバーの有用性と存在意義を疑わないという事は、シリーズを存続させる上での絶対条件の一つだったと思う。というか、二足歩行ロボットの存在意義を疑えば大概のロボットアニメは成立し得ない。二足歩行ロボットの不合理を合理として受容出来なくなった時点で、「その作品世界の中でのリアリティ」は崩壊する。だからパトレイバーの世界観の中で登場人物に「二足歩行ロボットの不合理」を語らせてしまった時点で特車二課という組織はその存在意義を失い、ただ警備出動の度に案山子の様にレイバーを立たせておくだけの情けない組織として描かれるしかなくなった。それはファンとして、やはり悲しい。

 という訳で、このブログを初めてからもしかすると初かもしれない、作品に対する批判も込めた感想になった。自分以外にこの本を読んだ人は、一体どの様に受け止めただろう。

 

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地方の片隅で今日も黙々生息中。

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