東北地方太平洋沖地震・風評被害の現場から

 地震発生から一週間以上が過ぎた。自分は今までどこに住んでいるか、といった事はあえてここに書かなかったが、これから書く事は『福島県民』としての自分の立場をはっきりさせた上で訴えたいと思う。

 自分は原発事故に揺れる福島県浜通り地域からは離れた内陸部に住んでいる。内陸部である事で津波等の直接的な被害は受けなかったが、家は傾き、地震直後は断水が続いた。住んでいる地域の市役所で給水活動が行われるというので、ペットボトルやポリタンクを持って行ったが、水も有限の為、自分の様に4人家族の世帯では1人3リットルまでの制限があった。4人だと12リットルまでだ。灯油等を入れておく容量20リットルのポリタンクだと半分弱にしかならない。だから飲用の水は給水所で配給を受けたものを使い、その他は飲用に適さない井戸水等を汲んだ。その井戸水を汲むにも随分並んだが、想定外の事態で水を汲む容器が無い人達も多く、小さい鍋やポット、ビニール袋等を手にした人々も多かった。

 一週間が過ぎ、各所で断水は復旧されつつある。今深刻なのは燃料不足と風評被害だ。

 燃料不足は自分が働く運送業界を直撃した。動ける車があり、人員がいても、軽油が手に入らない為に物資輸送が出来ない。従業員が通勤する為、また避難する為のガソリンも無い為、自宅から身動きが取れなくなる人間が多数出ている。暖房用の灯油も同様だ。ガソリンスタンドでは緊急車両用の燃料すら底を尽きつつあり、通常なら入って来る筈のタンクローリーによる燃料の直送(運送業界では『インタンク』と言う)に関しては再開の目処すら立たない。それでもぎりぎりまで運行を続けたが、自社の地下燃料タンクも既に空になった。
 警察署に出向き、緊急支援物資の運送に関する許可証の発行も受けた。これで現在一般車両が走行出来ない高速道路の通行が可能になり、指定のガソリンスタンドで優先的に燃料供給が受けられると期待したものの、そのスタンドにも既に燃料備蓄が無く、給油を断られた。これで完全に身動きが取れない手詰まりの状態になった。

 次に県内を襲った風評被害は更に深刻だ。
 県内から避難した人々が、福島県からの避難者だという理由で宿泊拒否を受けたりしている事は報道で伝わっていると思うが、それ以外にも県内産の農作物に関しては既に出荷のキャンセルが何件かあった。テレビで連日原発問題が報道される中、現時点で食品の安全性が保証出来ないという理由から出荷を断られたというケースだ。荷主様も悔しい思いをしている事だろうと思うが、原発問題が発生する以前に収穫され、保管されていたものですら出荷を断られている現状では、これから収穫されるものは更に厳しい状態になるだろう。

 県内産の農作物や畜産物、海産物等の食品に関して国は『食べ続けたとしても直ちに健康被害が出るレベルではない』旨を発表しているが、それでも出荷量が地震以前のレベルに戻るまでにはどれだけ時間がかかるのか想像も付かない。実際の余震もまだ続く中で、風評被害という更なる大地震が県内を襲っている。

 原発問題と言えば他にも、関西方面に拠点を持つ運送会社が北関東、東北向けの運行に難色を示すという話が聞こえて来ている。現地で折り返し運行する為の燃料が確保出来ない為、東北方面に物資を届けられたとしても関西に戻れなくなる可能性が高い事、東北方面からの出荷が停止に近い状態にある事が主な理由だろうと思うが、福島県を通過する際の被曝を恐れて、という理由も皆無ではないそうだ。自分はそれを残念に思うが、渦中にある福島県民として彼等を責められない。もし原発のトラブルが更に深刻化したら、という恐怖は常にある。

 これを書いている今もまた余震があった。

 これから先、どうなるかはまだ分からない。それでも自分はまだ生きているし、生きていられる。日常を取り戻すまでにどれだけの時間が必要かは分からないが、出来る事をやって行くしかない。

テーマ : 東北地方太平洋沖地震
ジャンル : ニュース

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初めまして、本ブログを興味深く拝見させていただいていたものです。地震の影響は深刻のようで、同じ国の人間としても、ブログの愛読者としても、心が痛みます。こういう言葉が適切かどうか分かりませんが、頑張って下さい。僕もはなはだ微力ではありますが、応援しています。

>Mさん

初めまして。温かいコメント、ありがとうございます。自分の書いた文章を読んでくれる人がいるだけでも励みになります。

Mさんご本人や周囲の方には、地震被害は無かったでしょうか。今回の地震は被害範囲が相当広いだけに、自分自身は無事でも家族や親戚、友人等がまだ被災地にいるという方も多いと思います。自分に出来る事は僅かですが、それら全ての人達の無事を願っています。

また後で書こうと思いますが、この現状を打破し、日常を取り戻すには自分を含めた凡人が各々の持ち場で頑張るしか無いと思います。無理をして、特別な事をする必要はありません。地震以前の暮らしの中で、各々が当たり前に果たしていた役割を、これから先も当たり前の様に続けて行く事。復興というのはその積み重ねの先にある様に思います。

自分も色々考えましたが、もうしばらくしたら、ここも通常の更新内容に戻そうと思いますので、その時はまたお付き合い頂ければ嬉しいです。
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Author:黒犬
映画と小説を主食に生きている。
地方の片隅で今日も黙々生息中。

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