東北地方太平洋沖地震・日常を取り戻す為に出来る事

 先日、この地震について福島県民の立場から思う事を書いた。この風評被害に関する問題は、今後も尾を引くと思う。自分の母方の実家は県内で農業を営んでいるが、自宅を訪れた際に「これでは今年の米も駄目だろうな」と悔しそうに話していた。自分としては、そこまでこの風評被害が続くとは思いたくないが、一度「汚染された食品」という『誤ったイメージ』を流布されてしまった県産品の出荷量が回復するにはまだ時間がかかるだろうと思う。
 なぜ『誤ったイメージ』という書き方をしたかと言えば、これだけ食料品が不足している中でほうれん草や牛乳以外の県産品にまで返品や契約破棄の動きが出ているからだ。以下に参考リンクを貼る。

 YOMIURI ONLINE『「4県産野菜売れない」広がる返品、生産者悲鳴』

 リンク先の記事を読む限り、規制品目以外の葉物野菜等にまで敬遠の動きが広がり、値崩れや売場からの撤去が進んでいる様だ。今回問題とされた4県産の野菜等に関して、消費者が敬遠する『気持ち』は福島県で生活している自分にも理解出来る。ほんの僅かでも危険性がある「かもしれない」食品を口にしたくないという気持ちは自然な事だ。それを責める権利を、自分は持ち合わせていない。そしてこうした、裏付けを持たない『消費者の気分』や『各種メディアが流布する負のイメージ』は、容易には覆せない。
 データをいくら並べても、人の『不安』はなかなか消えてくれないものだ。その『不安=誤ったイメージ』を消す事の難しさは、原発問題に関する現時点での政府発表が人々の不安を払拭出来ずにいる事からも明らかだろう。いくらデータを並べられても、動揺しない様にと言われても、本当に安全なのかどうか誰も『保証』する事が出来ない現状。発表している政府関係者ですら、自分の喋っている事に確信が持てないでいるのではないかと思える様なその内容は、逆に人々の不安を日々煽っている様にも見える。

 震災という大きな『非日常』によって自分達が暮らしてきた『日常』は大きく破壊された。そして押し寄せる『不安』が自分達を従来の行動とはかけ離れた異常な行為に走らせている。風評被害もその中の一つだ。自分達は踊らされているのだ。震災に、政府の対応に、そしてメディアの報道によって。そして何より、それらによって『不安』を植え付けられた自分自身の心の動きに、踊らされている。

 自分は、自分自身の為にもここで言っておこうと思う。


 『自分達が、もう一度日常を作ろう』


 何度も繰り返し書くが、自分は凡人だ。この震災に対して出来る事は少ない。
 例えば自分は著名人の様にチャリティーを呼び掛けたり、多額の義援金を寄付出来たりはしない。医師の様に怪我や病気で苦しむ被災者を直接的に救う事も出来ない。自衛隊やレスキュー隊の方々の様に被災地での救助活動や復興活動に参加出来る訳でもない。誤解を恐れずに言えば『役立たず』という事だ。その事を自覚した上で、出来る事は何か。自分は思う。それは『日常を生きる』事だ。

 自分には非日常に対処するスキルが無い。ただ、壊されてしまった『日常』をこれまで作っていたのは、間違いなく自分を含めた凡人達だという自負がある。日常を作って来たのは特別な人々ではない。そして政府や国会議員や官僚でもない。それは凡人が成すべき役割だからだ。そしてその事に自覚的である事が凡人の矜持だ。
 特別な事なんて何もない。当たり前に起きて、各々が与えられた仕事や役割をやり遂げる事。社会の中で、それぞれの持ち場で、各々が当たり前の努力を続ける事。それを一日一日積み上げる事。それが日常であり、今もっとも必要な事だ。

 もしもこの文章を読んでいる人の中に、義援金を寄付する余裕が無かったり、仕事等でボランティアに参加出来ない自分を恥じていたり、自分が『役立たず』だと感じている人がいたなら、そんなに難しく考える事はないよ、と言っておきたい。別に特別な事が出来なくてもいい。今までの貴方通りの暮らしを続ける事が、社会全体が日常を取り戻す事に繋がっている。そしていつか自分達が作り出す日常が、震災で押し寄せてきた非日常を駆逐する時が来る。

 今はまだ『日常』なんて考えられないという人達も多くいると思う。大切な人を震災で喪った人達。住宅被害や原発事故等で避難所生活を余儀なくされている人達。そうした人達がやがて日常に帰って来られる日まで、自分達凡人がしっかりと世の中を回して行く事。それぞれの持ち場で日常を作って行く事。そして日常が及ぶ範囲を広げて行く事。その事が、今の自分達に出来る事だと信じている。 

テーマ : 東北地方太平洋沖地震
ジャンル : ニュース

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Author:黒犬
映画と小説を主食に生きている。
地方の片隅で今日も黙々生息中。

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