福島県民として言える事・井上智徳『COPPELION』

 以下の内容は書こうか書くまいか悩んだけれど、やはり書いておこうと思う。

 井上智徳氏の漫画『COPPELION(コッペリオン)』は「お台場に建設された新都電力台場原子力発電所が地震によるトラブルでメルトダウンを起こし、都内全域が放射能汚染されてから20年が経過した」という舞台設定を持つ作品だ。タイトルの『COPPELION』とは『COPPELIA(コッペリア・動く人形の意)』と『ION(イオン)』を繋ぎ合わせた造語で、『放射能の抗体』を持つ様に創られた主人公達人造人間の事を指す。主人公達の目的は汚染された東京で生存者を救出する事だが、コッペリオンという呼び名には「彼等は人間ではなく、使い捨ての人形である」という意味が込められている。
 何事も無ければ5月に第10巻が刊行予定で、震災発生前にはアニメ化も決定していたそうだが、震災後の福島第一原子力発電所の事故を受けて今後の展開は不透明な状態だという。

 以下、作品の内容について触れるが、本作で描かれている原子力発電所の現状や、放射性物質の有害性等に関する描写は必ずしも現実に即している訳ではない事を予め明記しておく。『放射能の抗体』なんていう言葉が出て来る作品なので、漫画の内容を真に受ける人はいないと思うが、実際の放射性物質に関する知識や対処法等は本作以外の正確な情報を参照して欲しい。本作はあくまでも漫画であり、フィクションだ。

 さて、実は自分はこの作品を以前から単行本で読んでいた。原発を持つ福島県に住み、その原発が東京に電力を送っている事を知っている身からすると、その設定は荒唐無稽なものに思えたが、あえて『原発事故で死の街と化した東京』というものを、そしてそれ以前に『原発を受け入れた東京』というものを描こうとした本作に興味があった事も事実だ。しかし、震災と原発事故の末に、自分は一つの結論が出た様に思う。


 東京が原発を受け入れる日など、この先絶対に訪れない。


 荒唐無稽なのは放射能の抗体を持つコッペリオン達でもなければ、死の街と化した東京の姿でもない。本作に描かれた中で、何が一番あり得ないものなのか。それは『原子力発電所を受け入れた東京』の姿に他ならない。仮に東京に原発を建設するとして適した場所があるのかといった実際問題については自分は専門家ではないから何とも言えないが、地理的、技術的には可能であったとしても、この先誰がそれを望むだろう。

 東京都知事の石原慎太郎氏は震災後に福島を訪れ、佐藤雄平福島県知事と会談したが、福島県に対する協力を申し出る一方で、メディアの取材に対し原発の必要性について言及する事も忘れなかった。それを聞いた地元では「そんなに必要なら東京に作れ」という意見も当然出たけれど、本当にそんな事が出来るとは誰も思っていない。震災前ですら出来なかった事が、震災後に出来るなんて誰が信じるだろう。石原氏は「東京はできるだけの事をやる」と言ったけれど、その「できるだけの事」の中には原発問題や電力供給に関する依存体質の改善は含まれていないだろう。

 福島県民が心配しているのは、これから夏場の電力不足が懸念される中で、現在停止中の福島第二原子力発電所での発電を再開せよとの論調が強まる事だ。実際、自分は早期運転再開の可能性は十分あると思う。どんなに地元が嫌悪感を持っても、安全性への懸念を示しても、この国に必要な電力が減る訳ではない。それならば、新たな発電所の受け入れ先を探すより、既に原発を持っている所にリスクを負わせ、見返りとしてこれまで通り金や雇用を与えて反対意見を黙らせる方が合理的だ。

 だから東京に住む人は安心していい。この漫画で描かれている様な事が起きる可能性は無いのだから。なんて、少し意地が悪い事を書いてみたけれど、それがこの国の現実だ。これまでも、これからも。

 

テーマ : 漫画の感想
ジャンル : アニメ・コミック

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と、偉そうな事を言いながら原発代金を受けとる福島県なのであった(笑)

所詮金に目が眩んで自ら手を挙げたんだから福島は自業自得だよ(笑)

>爆笑さん

貴方が笑っていられる間はそうやって笑っていれば良いのではないですか。それを咎める権利は自分には無いし、全ての人が福島に対して同情的であったり好意的であったりするべきだとも思っていません。そもそもそんな事は無理な話です。
「被害者面して偉そうに」「金目当てなんだから自業自得」と思われるならそれもどうぞ。自分達大人はもうそんな意見も聞き飽きました。

だから今は好きなだけ笑ってやって下さい。貴方がいつか自分達と同じ様に、他人から非難され、笑われる立場にならない事を願っています。こんな事は福島県だけで沢山ですから。

No title

 私は福島県の郡山市という所に住んでいますが、原発の恩恵とか全く感じ無かったよ。
 まあ、一応中心的な都市だから、東電関係者が郡山で金落としたりしたかもしれないがね。あと東電は高額納税者だったしね。
 震災後は損害賠償で8万円とか。まあ、申請してないけど。8万円とかナメてるとしか思えん。
 福島県民がみんな原発利益で潤っている(いた)みたいなイメージは持ってほしくないな~。まあ別にどうでもいいけど。

>通りすがりの福島県民さん

自分も中通りの人間なので、『福島県民=東電から金をもらっている』とか『福島県民は原発誘致に賛成した=原発事故でどんな酷い目に遭ったとしても自業自得』といった論調に対して、反対したい気持ちはあります。でもそれを相手に理解してもらう事は困難だとも思います。

東電から直接自分の懐に金が入って来る事は無くても、税金その他の面で間接的な恩恵はあった筈だと言われれば反論は出来ませんしね。だから自分は、この問題に関して『福島県民である自分の気持ちや立場を理解して欲しい』とは言わない事にしました。福島県民を嘲笑したい人はすればいいし、自業自得と思う人は思えばいい。馬鹿にしたければいくらでもすればいい。

自分で言うのもなんですが、それは酷く投げやりで無気力、無責任な態度だと言えます。最初から相手と向き合う事を拒絶しているという事ですから。これは本来なら改めるべき考え方なのでしょう。でも正直、この問題については自分個人の手に余るという気がしています。コメントを頂いた記事を書いてから1年以上経ちましたが、まだ自分の中で解決策は見付かっていません。本当に難しいです。
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Author:黒犬
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地方の片隅で今日も黙々生息中。

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