もうひとつの「連続的実験」 小中千昭・安倍吉俊『ですぺら』

 本作を紹介する前に、まず昔話をしよう。
 その昔、それこそもう10年以上も昔の話だが、『serial experiments lain』(以下lain)というアニメ作品が存在した。本著の帯で『伝説のカルトアニメ』と評されている作品がそれであるが、その『lain』を生み出した小中千昭氏と安倍吉俊氏が再びコンビを組んで作り上げたのが本作『ですぺら』である。
 本来はここに『lain』でも監督を務めた中村隆太郎氏を迎え、アニメ企画としても同時進行していた訳だが、現在は中村監督の体調不良等もあり、アニメ制作は凍結されている。残念。

 さて、『lain』を語る上で外せない要素のひとつに、当時刊行されていたアニメ誌『AX』での連載企画がある。今は雑誌自体が存在しないが、そのAX誌上での連載企画の延長線上に位置するのが、『アニメージュ』で連載された『ですぺら』であった事は言うまでもない。10年以上の歳月を経た後にスタッフが再結集し、新たな作品を作るという奇跡的な企画は、正にもうひとつの『serial experiments』(連続的実験)であるとも言える。

 と、ここまで書いた時点で、一体どれだけの読者が付いて来れるか不安ではあるのだが、『lain』について一から説明するとなると膨大な文字数を必要とする上、自分でもその内容を正しく伝えられるのか定かではないのでここでは割愛する。ただ、当時のアニメ業界の中でも『lain』という作品はかなり挑戦的な作品であり、正に「連続的実験」の名を冠するに相応しい企画だった事は今でも記憶に新しい。そして当時の自分はといえば、まだDVDが普及していない中で結局LDを全巻買ってしまった辺り、結構ハマっていた気もする。更に仲間内の話で恐縮だが、自分と同様に『lain』にハマっていた某氏はきっと近年出たブルーレイディスク版を買ってくれるに違いないと信じている。再生機が無ければこの際一緒に買えばいいと思うよ。

 さて、この文章も半ばその某氏に対する私信になりつつあるが、次に肝心の『ですぺら』について。
 『ですぺら』が描くのは大正時代の浅草であるが、史実と虚構を織り混ぜながら物語は進行する。安倍氏の手によるイラストと、小中氏による小説パートによって再構築された大正時代の浅草の姿は、現実のそれとは異なるにせよ独特の世界観をもって物語を受け止めている。サブタイトルの『大正電脳ダダイズム絵巻物語』という言葉もまた言い得て妙だと思うのだが、こうした「現実を出発点として非現実を構築する」手法は『lain』の頃から小中氏の得意とする所だ。本作の主人公である少女『あいん』の設定等にも『lain』で生み出されたものが生きている部分が多々あり、そうした共通項を探す事もまた、往年のファンにとっては楽しみの一つだろう。

 という訳で、10年以上前のアニメ事情に明るくない方を完全に置き去りにしつつの更新だった。次回はもう少し間を置かずに更新出来る様に努力します。

 

テーマ : 本の紹介
ジャンル : 小説・文学

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No title

>ブルーレイディスク版
うん、実に迷いどころなんだよねえ。既にLDがあるからねえ。まあ、ハイビジョン時代にはLDはキツイけどさ。しかもこれを買っても他に買う作品がないという問題も・・・。

そうか、ハイビジョンモニターじゃなくてスマートフォンの画面で見ればブルーレイじゃなくても綺麗に見れるぞ(マテ

>某氏

いやいや、そこは『買ってから考える』という手もあるのではないかと考えるが如何か。

『lain』以外に買うコンテンツが無いというのは業界が衰退しているのかそもそも君のストライクゾーンが狭いのか微妙なところだ。かくいう自分も最近は映画等のソフトは買っていないけれどね。何か面白い作品があったら教えて欲しい位ですよ。
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Author:黒犬
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地方の片隅で今日も黙々生息中。

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