無意識というフィルタの向こう側へ・内藤泰弘『血界戦線3―震撃の血槌―』

 最初に謝っておく。本記事は正確に言うと『血界戦線』3巻の感想ではなく、そこに収録されたあとがき漫画に対する感想なので、表題に偽りありだ。その事を了解した上で下記の文章を読んでもらいたいと思う。

 内藤泰弘氏は『トライガン』の頃から単行本にあとがき漫画を書き下ろしてくれるので、ファンにとってはそれがまた楽しみの一つでもある。それで今回のあとがき漫画なのだけれど、単行本が震災後に刊行された事もあって、テーマはずばり震災についてだった。

 震災後、色々な立場の人達が震災について語っている。マスメディアはもちろん、芸能人や有識者等もそれぞれの立場で震災というものを受け止め、それを言葉にして来た。内容も被災地への励ましの言葉であったり、政府の対応に関する意見だったり、自らのこれからの活動についてであったりと様々だけれど、自分がそうである様に、皆この震災に対する自らの立ち位置を明確にしなければ先には進めないのだろうと思う。
 起こってしまった震災を踏まえて、これからの自分がどう生きて行くのか。皆その自問自答の先に、自らが進むべき道を探している。

 もちろん、凡人である自分も色々と考えて来た。これまでの事、これからの事。その考えをまとめる上で他者の意見や考え方というものは、やはり参考になると思う。別にマスメディアが流す様な情報じゃなくてもいい。自分が今まで読んで来た小説の中に、漫画の中に、或いは今まで観て来た映画やアニメの中にだってそんな重要なヒントは数多くある。

 福島県民である自分は、やはり原発というものを考える。その、これまでの在り方と、これからについて。その時に、今回内藤氏が書いたあとがき漫画や、これまでの内藤氏の作品を読み返すと、新しい発見がある。

 “確かだと思ってた平和とか社会は確かじゃなく 無限のように使ってたエネルギーは全然有限で そんなアッタリマエな事もぼんやりとしか考えられてない位 自分は緩んでた”
 『血界戦線3』あとがき漫画より

 内藤氏はこの後、“正直 恥ずかしいよ”と自省する。でも、そんな事は自分も含めて皆同じだ。皆同じ様に、本当は知っている筈の事を『無意識』というフィルタで覆い隠して生きて来た。そうしないと生きる事が辛く、面倒なものになるから。
 例えば「蛇口をひねれば水が出る」という事さえ知っていれば暮らす事に不自由は無いし、「コンセントにプラグを差し込めば電気が使える」という事さえ知っていれば、その電気が何によって、誰によって、どんな手段で作られているかなんて知らなくても生きて行ける。何不自由無く。自分だってこれまでそうして来た。東京に住んでいた頃に「この電気は福島から来ているのかな」なんて思っていたのは自分が福島県民だからであって、普通の人達は自分が使っている電気がどこから来ているかなんていう事は知らないし、知らなくていいし、気にもしていない。当然、調べようと思えば調べられる訳だけれど、そんな余計な事に割く時間や余裕は無い。もっと他にしなければならない事や、対処しなければならない問題が日常生活には多過ぎる。

 ただ、そうして自宅まで通じている水や電気は、はやり誰かが作っているものだ。他にも、食べ物だって誰かが作物を作り、家畜を飼育し、それを加工して商品として流通させてくれるから自分達は店でお金を払ってそれらを買うという事が出来る。でもこれにしたって「店に行けばお金と引き替えに商品が買える」という事さえ理解していれば生活に支障はない。何か品物を買う度に生産者の苦労等に思いを馳せていたのでは身が持たないし、気疲れするばかりだ。

 だから自分達は普段、それらの事を『自分には関係ない事』として無意識の領域に放り込んで済ませている。そして同時に、それが許される現代社会の構造に深く依存している。
 これは内藤氏が『トライガン』の中で描いていた『プラント』と人間の関係に似ている。プラントは砂の惑星に墜落した星間移民船から掘り起こされ、遺された人類の生命線として水や食料等、あらゆるものの生産を一手に担っている。しかしプラント自体の生産技術は失われており、人々は「プラントとは一体何なのか」という事を本質的には理解していない。そして理解しないままでも、プラントに依存する暮らしを続けなければ生きて行けない。原発も似た様なものだ、と言ったら言い過ぎだろうか。

 無意識の領域を作って、面倒な事をそこに投げ込む事を自分は否定しない。この世の中で起きるあらゆる事、そしてこの世にあるあらゆる物。それらに対して常に自覚的に、何らかの問題意識や責任を持って生きて行く事は苦痛だろう。でも、そうやって無意識の中に投げ込んでいるものが、果たして全てそのままでいいのかという問題は残り続ける。時に人間は自省して、それらを見つめ直す必要に迫られる事があるのかもしれない。

 無意識というフィルタの向こう側へ踏み出す事。その上でこれからを考える事。今必要とされているのはそういう事なのだろうと思う。

 

テーマ : 漫画の感想
ジャンル : アニメ・コミック

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Author:黒犬
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地方の片隅で今日も黙々生息中。

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