交錯する人間模様・木尾士目『げんしけん10(二代目の壱)』

 物を書くリハビリがてら、軽いものから書いてみる。
 さて、「木尾士目の代表作は?」と聞かれて『げんしけん』と即答する人と、『陽炎日記』や『4年生』『5年生』と答える人とでは、そのマニア的濃さにどの程度違いが出るのか定かではないが、冷静に考えると濃さのベクトルが違うだけでどちらも大差無い様な気もする。そこの所どうなんでしょうね某氏。
 自分としては『げんしけん』以前の作品と比べた場合、作風にライトかつキャッチーな要素が加わったとは思うけれど、木尾士目氏の作品に一貫している特徴として「人間同士の関係性を執拗に描く」というものがあると思う。その点については後述するけれど、本作のライトな外見に惑わされると痛い目に遭う可能性はあるかなと。どう痛い目に遭うかはまあ読んでみれば分かる……かもしれない。

 『げんしけん』は「現代視覚文化研究会」なる大学サークルを舞台にした、ある種オタクの生態観察的な作品だ。現代視覚文化研究会などと言うと堅苦しいが、要は漫画、アニメ、ゲームその他もろもろのオタク的サブカルチャーに興味を持つ集団が対外的に通用しそうなそれっぽい名前をでっち上げただけのオタクサークルと捉えて間違いはない。しかしサブカルチャーの世界には様々なマニアが存在する訳で、一口にオタクと言ってもその目指す方向性はかなり異なる。現実のオタクは時に反目し派閥抗争の様な争いを起こす事もあるが、『互いの趣味に文句を言わない』という不文律を守る限りは概ね無害な人種だ。
 本作は漫画なので、話を面白くする為に登場人物達の何人かには極端なキャラ付け(女装男子等)がされているが、そのオタク的性格や嗜好は概ね現実のそれをリアルに再現しているものと思っていい。本作をオタクが読めば「ああ、あるある」というレベルだ。いや、女装男子は流石にどうかとは思うけれど。

 さて、自分は先に『木尾士目氏の作品に一貫している特徴として「人間同士の関係性を執拗に描く」というものがある』と書いたが、それは本作でも変わらない。
 時に刃傷沙汰にまで発展する恋愛感情等、どろどろした人間模様を描く事に関して相当の実力を持つ木尾士目氏だが、『げんしけん』でもそれは健在で、学生が抱く自分の将来に関する漠然とした不安であったり、他者との間合いの取り方に見え隠れする不器用さであったり、そうした人間のナマの感情をリアルに描いて見せる事に毎回相当の注意が払われているという印象が強い。『げんしけん』はいわゆる「部活もの」であり、それもオタクものなので以前の作品からすれば幾分甘めの味付けにはなっているが、それでも同じ部活ものであるゆうきまさみ氏の『究極超人あ~る』や、田丸浩史氏の『アルプス伝説』と比較するとその差は一目瞭然だ。単純にネタや笑いを追求する作品であるならば、ここまで執拗にキャラクターの内面を描く必要はない。それでもそれをやってみせるという所が、木尾士目氏の味なのだろうと思う。

 という事で、軽いテーマから感想再開してリハビリしようと思ったら、大して軽い作品でもなかったというオチが付いた『げんしけん』でした。

 

テーマ : 漫画の感想
ジャンル : アニメ・コミック

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Author:黒犬
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地方の片隅で今日も黙々生息中。

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