あの時言えなかった「さよなら」を告げる為に・新海誠『星を追う子ども』

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 色々と事情があってなかなか観に行けなかった映画『星を追う子ども』を17日にようやく観る事が出来た。後から調べたら公開終了ギリギリのタイミングで滑り込んだ感じだったらしい。今日現在では都内や関東近郊でも軒並み公開終了になっている様で、これから観る方はDVDなりブルーレイなりの発売を待つ事になるのだろう。関西方面ではこれから公開になる劇場もいくつかある様なので、ぜひ劇場に足を運んでもらいたい。

 さて、劇場で作品を観てから一週間が経ち、自分の中でも映画の内容について語りたい事は山ほどあるのだけれど、詳しいあらすじについてはここでは一切触れない事にする。出来れば事前情報を一切仕入れずにこの作品に触れてもらいたいと思うからだ。という訳で以下は追記。未見の方は退避推奨。


 さて、新海監督の作品について、自分が一貫したテーマだと感じているものに『別れ』がある。『彼女と彼女の猫』『ほしのこえ』『雲のむこう、約束の場所』『秒速5センチメートル』等、新海監督の作品では常に別れによる喪失が描かれて来た。自分などは、新海監督の人生経験の中に、何か繰り返し別れを描かせる様な要因があったのではないかと邪推してしまうのだが、本当のところどうなのかは監督のみぞ知るところだ。

 自分達の人生の中にも数多くの別れがある。それは遠く離れた場所に転校して行ってしまった友達との別れかもしれないし、片想いの相手や恋人との別れかもしれない。或いは近しい人との死別という、もう再会する事が叶わない永遠の別れかもしれない。現実を生きる自分達はそうした別れをひとつひとつ背負いながら生きているが、その中には別れの悲しさや辛さだけではなくて、相手に伝えられなかった想いというものもまた同じ様に存在するのだろう。中でも、相手にちゃんと「さよなら」が言えないまま別れた経験は、誰の心にも同じ様にしこりとして遺っているのではないか。

 自分語りになってしまうが、自分の中にもそうした経験はある。そうした別れは辛く、長く尾を引くものだ。それが死別ならば尚更。二度と会えなくなってしまうなら、その前に何か相手に伝えなければならない言葉が、想いがあったのではないか。そんな気持ちが、相手を喪失したまま心中で渦を巻いている。いつまでも。何年経っても。「さよなら」が言えなかった、別れと向き合えなかった自分に対する後悔と共に。

 敢えて書くが、今回の震災でもまた数多くの別れがあったに違いない。幸いにも自分は近しい人との死別という最も辛い別れを経験せずに済んだが、大切な人を亡くされた方々の心中は察するに余りある。自分にはそうした方々の気持ちが分かるなどという事は口が裂けても言えない。各々の苦しみ、痛み、後悔は、決して共有出来ない類のものだし、そうでなくてはならないだろう。出会いがそうである様に、別れもまた唯一無二のものだから。だから自分達は数々の別れと喪失を抱えたまま、それでも今を生きている。しかし、時にはこんな考えが頭をよぎる事もある。

 『もし、あの時言えなかった「さよなら」を告げる事が出来たら』

 誰もが考えるそんな夢物語に、ご都合主義ではなく真摯に向き合い、映像化した作品が本作『星を追う子ども』なのではないかと自分は思う。だからこそ本作は異世界を旅するファンタジーであると同時に、限りなくリアルに自分達の生きるこの現実を描いた作品でもある。そしてその普遍的なテーマは自分達の心にストレートに響く。

 以下は少し蛇足かもしれないが、映像の作り方や見せ方といった細かい部分について。
 上記の通り、本作はファンタジー的な設定を持っている作品ではあるが、そのテーマは現実と深くリンクしている。だからこそ現実との『地続き感』を出す為に作中では様々な工夫が成されていると思う。例えば食事をするシーンひとつ取っても、そこに登場する食材や料理が見た事も聞いた事も無い様なものにならない様に、作品を観る側がその味や食感を想像出来る様なものになっている。ファンタジーなのだから、異世界に生息する謎の生物の肉や謎の果物等を美味しそうに食べるシーン等が出て来たとしてもそれはそれで不自然ではないし、そのギャップを面白く見せる事も可能ではあるのだけれど、あえてそうせずに、ありふれた芋を出したりする。するとそれを観る自分達も、その芋を頬張っている登場人物達の気持ちにスッと入って行ける。こうした事を作劇上のテクニックとしてだけではなくて、ちゃんとその効果を意図して盛り込んでいる所に、本作の持つ真摯さが垣間見える気がする。

 上では「真摯さ」と書いたが、なぜそんな手の込んだ事をするかと言えば、この物語は登場人物達の旅であると同時に、それを観ている自分達の旅でもあるからだ。自分達の心にある、伝えられなかった「さよなら」や届けられなかった想い。自分達はそれらを登場人物達の心に重ね合わせ、画面には決して映る事が無い同行者として彼等の旅に参加する。各々が、自分の心に抱えたままの「さよなら」を大切な人に告げる為に。

 もちろんそれはファンタジーだ。決して現実には叶わない夢物語だ。届かなかった想いはそのままで、伝えられなかった言葉はそのままで、自分達は今を、そして明日を生きて行くしかない。でも映画という夢物語の中で、自分達は届く筈のない「さよなら」を告げる為に旅立つ。大切な人に、「大切だった」と過去形で語る事が出来ない人に、本当は別れたくなかった人に、それでも「さよなら」を言う為に。時にはそんな救いが、優しい嘘があってもいい。この映画を観ると確かにそう思える。

 最後に。本作のテーマソングである熊木杏里さんの『Hello Goodbye & Hello』を聴けば、上で自分がグダグダと長文で書いた内容が全て歌の中に凝縮されている。自分の文才の無さに苦笑するしかないのは決まってこんな時だ。必聴。

 

テーマ : 映画感想
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地方の片隅で今日も黙々生息中。

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