全ての出会いと、別れの中に・大西科学『さよならペンギン』

 時に、泣きたくなる様な物語に出会う事がある。

 何も悲劇とか、身につまされる話とか、逆に人を感動させる様な美談といった物語ばかりが涙を誘う訳ではない。悲しくて泣くとか、感動して泣くとか、嬉しくて泣くとか、そういった感情に由来する涙ではなくて、ただ泣きたくなる様な気持ちを起こさせる作品がある。言葉で上手く説明する事が出来ないのでもどかしい部分はあるのだけれど、自分は稀にそういう物語に出会う事があるのだ。同じ作品を読んだからといって、他の人が同じ様な感想を持つかどうかは分からないが、本作『さよならペンギン』もまた、自分にとってはそんな作品の一つだ。

 自分には絶対に叶わないであろう、馬鹿げた夢が一つある。それは人の寿命を超えて生き続ける事だ。別に不老不死になって権力を持ち続けたいとか、そういう欲望がある訳ではない。何より自分はそうした権力者の地位には程遠い凡人だ。それに長く生きたところである時突然に常人離れした何かの才能が目覚めるなどという事も無いだろうし、突然器用に生きられる様になるなんていう事も無いだろう。しかしそれでも、許されるものなら何百年も生き続けてみたいと思う。そして人間というものの行く末をこの目で見てみたい。
 普通の人間が生きていられる時間は、この世界の成り立ちや人類の歴史と比較すればあまりにも短い。だからこそ素晴らしいという人もいるだろう。でも自分はいつも思うのだ。人間が今日まで歩いて来た長い道程の先には一体何があるのだろうと。そしてその答えを知りたいと。

 本作の主人公である南部観一郎は、まさにその様な長い人生を生きて来た人物だ。ここで彼の人生について詳しく説明する事はしないが、ある意味で自分の夢を体現した様な彼の存在に触れ、彼の物語を読み進める時、やはり自分は先に書いた『泣きたくなる様な』気持ちになっている事に気付く。悲しいのでもなく、同情しているのでもない。感動というものとも違う。ただ、泣きたくなる。涙する事が自然である様に思える。
 長く生きるという事は、常人よりも多くの出会いと別れを体験するという事だ。運命的な出会いもあれば、惜別もあるだろう。そんな出会いと別れを何度も繰り返しながら、彼は何を想い、願うのか。そして、そうした彼の一期一会を傍らにいて見守る一羽のペンギンは、何を想っているのだろう。

 悲しい物語かと言われれば、ある意味ではそうだろう。しかしそれ以上に、優しい物語でもあると自分は思う。その優しさは多分、全ての出会いと別れの中に存在するのだろう。自分はそれに気付く事が出来るだろうか。その存在を信じ続ける事が出来るだろうか。

 

テーマ : 本の紹介
ジャンル : 小説・文学

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地方の片隅で今日も黙々生息中。

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