感じるのは懐かしさか新しさか・山本弘『妖魔夜行 闇への第一歩』

 書店で懐かしい題名を見かけたのでつい購入。まさか『妖魔夜行』の新刊が出るとは。

 自分の様に今三十代の読者には懐かしいものだが、もっと若い読者でもどこかで本シリーズの影響を受けた作品に出会っているかもしれない。妖魔夜行とはそうした作品だと思う。もっとも今は『テーブルトークRPG』というものに馴染みがない方も多いだろうけれど、ここで『GURPS妖魔夜行』とは何ぞやという事を語り始めると長くなるので割愛する。

 小説における妖魔夜行について手短に説明すると、「現代を舞台として、人間社会に順応して生き続ける妖怪達を描く物語」という事になるかと思う。妖怪と言えば水木しげる氏の築き上げた『ゲゲゲの鬼太郎』の世界観が一番有名だろうけれど、妖魔夜行の世界では、妖怪達は人間の『想い』から生まれる事になっている。だから古くから生き続ける「化け狸」や「烏天狗」等の妖怪一族もいれば、近年になって信じられる様になった都市伝説から新たに生まれた「隙間女」や「100キロ婆」等の新しい妖怪もいる訳だ。

 人間の想いから生み出される妖怪達の中には、負の感情から生み出された為に人に害を成すものも少なくない。夜道で人を驚かすレベルなら大して問題は無いだろうが、人の命を奪ったり、妖怪の存在が公になってしまう様な大事件を起こす可能性のある悪い妖怪が生まれてしまう事もある。そんな時は、普段は正体を隠して人間社会に溶け込み、独自のネットワークを持って事件解決にあたる善良な妖怪達の出番だ。様々な特殊能力を持つ妖怪が起こす事件に対処出来るのは、同じ妖怪だけなのだから。

 人の想いが妖怪を生み、妖怪と人間が共存する世界。そして何より現代を舞台にするという事。そこに妖魔夜行シリーズの真髄がある。善良な妖怪も、人に害を成す妖怪も、全ては人間の心から生み出された存在であり、現代に生きる妖怪を描くという事は現代を生きる人間を描くという事と同義となるからだ。
 本作に登場する妖怪『バッドエンド』もまた、現代人が抱えるある感情から生まれた存在なのだが、一体彼を生み出した想いとはいかなるものだったのか。それは本作を読んで確かめて欲しい。

 さて、複数の作家が同じ世界観を共有して作品を描いて行く「シェアード・ワールド・ノベルズ」でもある妖魔夜行だが、新生妖魔夜行の先陣を切るのはやはり山本弘氏だ。色々な意味で古い読者には懐かしいのだが、旧シリーズの基本的な設定のみを残して、パラレルワールド的に物語の舞台を新しくし、主要な登場人物達も全て入れ替えたにも関わらず「ヒロインがオタク趣味」という設定だけは決して譲らないのは山本氏の執念か何かなのだろうか。そのせいで何だか妙な既視感がある。引用されるネタは新しくなっているのだけれど、問題はそこじゃないというか何というか。まあこれはどうでもいい蛇足だ。

 自分の様な読者はどうしても懐かしさが勝ってしまうが、旧シリーズを全く知らない読者が本作に触れる時、そこにはどんな新しさがあるのだろうか。

 

テーマ : 本の紹介
ジャンル : 小説・文学

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