もう引き返せない自分達は ディーン・クーンツ『フランケンシュタイン 対決』

 ディーン・クーンツ氏の『フランケンシュタイン』シリーズは『野望』『支配』と続き、本作『対決』にてひとまずの決着を迎える。現代まで生き抜いたフランケンシュタイン博士は新人種と呼ばれる人造人間達を生み出して旧人種を駆逐し、自らを頂点とする王国を築こうと目論む訳だが、絶対服従のプログラムを組み込んでいた筈の新人種達に思いもよらぬ変異が起こった事を契機に、制御不可能となった自らの被造物の反乱によってその思惑は狂い始める。ヴィクター・フランケンシュタインの野望がどの様な結末を迎えるのかは本作を読んで確認していただくとして、彼の王国が自壊して行く様は現代人として他人事ではない。

 ヴィクター・フランケンシュタインという人物について、作中では一貫してプライドが高く傲慢な独裁者として描いている。自らの知性こそ最高のものであり、その判断は常に正しく、他の無知蒙昧な旧人種は全て新人種に取って代わられるべきなのだと信じて疑わないその姿は、それこそ「旧人種」であるところの自分からすると「傲慢」という言葉が服を着て歩いている様にしか見えない。しかしながら、ある意味それは科学万能と安全神話を信じて疑わず、原発問題で足を掬われた自分達の傲慢さの鏡像にも思える。フランケンシュタイン博士はもちろん架空の人物だが、彼の言動は現実を生きている自分達の中にある醜悪さを分かり易い形で抽出してみせたに過ぎないのだろう。それでも自分達は立ち止まる事が出来ない。

 科学技術の進歩が人類の発展にとって真にプラスであるか否かという問題は昔から繰り返されてきたテーマで、様々な作品がその事について触れている。例えば普段アニメは全く観ないよ、という人でもスタジオジブリの作品だけは観ている方も多いだろうけれど、それに限ったとしても自然回帰をテーマにした作品は数多い。分かり易い所で言えば『もののけ姫』とか『平成狸合戦ぽんぽこ』とか。後は『風の谷のナウシカ』や『天空の城ラピュタ』等もそうだけれど、これらの作品は皆、自らの力を過信し自然を蔑ろにした人間の姿を描く事で「このままでいいんですか?」という問いを発信して来た。それこそもう執拗に。しかしながらその一方で、あらゆるメディアがどんなに自然回帰を訴えても自分達が立ち止まる事は無かった。それは科学技術が発展する事によって得られるプラスの面を重視すれば、その裏側に位置するマイナス面を打ち消して余りあるという判断の上で、経済発展や利便性の向上を追求した結果なのだろうけれど、個人レベルで考えれば単純な話で、便利さや快適さを求めてマイナス要因は見て見ぬ振りをしたというだけの話だ。そこに計算があった訳でも何でもない。手に入れられるものは何でも手に入れたいし、出来る事は全てやりたいという欲が勝っただけの話だ。

 例えば最近、スマートフォンが人気で、猫も杓子もスマートフォンを買っている。確かに便利なんだろうなと思う。けれど身の回りでは「とりあえずスマートフォンに買い換えたのだけれど、使い方がよく分からないしEメールも契約していない」という人もいる。「それスマートフォン必要無いんじゃないですか」と言いたくなってしまうが、要するにそういう個人レベルの細かい判断の積み重ねが自分達を盲目的に前へ前へと進ませて来た原動力なんだろう。だから自分達は今更立ち止まれないし、昔の暮らしにも戻れない。
 ちょっと考えれば、自分が子どもの頃には携帯電話なんて普及していなかったし、それこそ黒電話のダイヤルを回して電話を掛けていた訳だから(しかしこの『ダイヤルを回す』という表現は今の子ども達には通じないだろうなと思う)ざっくり考えても世界中に普及した携帯電話のバッテリー充電に必要なだけの電力が新たに必要になった訳だ。更にその電波を中継する基地局とかデータ通信網だって電力を消費するし、携帯電話そのものの製造工程でも当然電気を使いまくる。その他の産業も似た様なものだろう。これまた一般家庭に普及しまくったパソコンとか。そうしてあらゆる産業とサービスが「電気をよこせ」と要求してくる以上、そして消費者がそれを求める以上は、手に負えない放射性廃棄物が出る事から目を逸らしてでも原発を作りまくるという選択も「アリ」になってしまうんだろうなと思う。だって今から「やっぱり携帯電話やめようぜ」とか「エアコンの使用を全面禁止にしようぜ」とかあり得ないだろうから。

 色々書いてきたけれど、自分は結局人間の理性や自制心は目の前の便利さに敵わないんじゃないかと思うのだ。「どうせ原発本体や放射性廃棄物の処理が行き詰まる頃には自分は生きてねーよ」と開き直れば何でも出来るのと同じで。その醜悪さと傲慢はヴィクター・フランケンシュタインのそれを軽く上回るだろうけれど、いつか自分達の王国が自壊する時が来るとして、その末路をどう受け止めれば良いのだろうと考える時、もう引き返せない自分は途方に暮れるしかない。本当の『自業自得』というのは、多分こういう事なんだろう。

 

テーマ : 本の紹介
ジャンル : 小説・文学

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

黒犬

Author:黒犬
映画と小説を主食に生きている。
地方の片隅で今日も黙々生息中。

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
検索フォーム
Twitter
リンク
RSSリンクの表示
Amazon