あの日のように笑えなくても・BUMP OF CHICKEN『ゼロ』

 人間が生きて行く為に何が必要かと考える。当然水や食料、空気といった最低限の生命維持に必要なものは要るだろう。それらを手に入れる為には金だって必要かもしれない。また「結局金か」とか言われそうだが、衣食住に不自由しない為にはいくらかの金はやはり必要だ。どんなに『人はパンのみにて生くるにあらず』と言っても、パンが食べられなければ人は飢える。いや、『パンが無ければお菓子を食べればいいじゃない』とか「日本人なら米食ってろよ」とかいう話ではなく。

 そうした単純な話はひとまず置くとして、皆が生きる為に求めているものでありながら、なかなか手にする事が出来ずに苦しんでいるものに、自分は思い当たる。それは『居場所』だ。それは単に住む家があるかどうかという事ではなく、自分の存在を受け入れてくれる場所や人という意味での、本当の意味での自分の居場所を得られるかどうかという事だ。

 現代は社会の中で居場所を失う人が多い様に思う。例えば職を失うという事は単純に経済的な問題であるかの様に語られるけれど、それ以上に深刻なのは個人から社会的な居場所を奪う事だ。
 自分は昔コンビニの深夜勤で食いつないでいた時期があるのだけれど、そこを辞めて実家に戻ってからしばらくの間はなかなか職に就けず、無職の期間が続いた。ハローワークに行き何社も面接を受けたが、その度に不採用という結果になって落ち込んだ。この就職活動というものは不思議なもので、何社も受けては落ちてを繰り返していると自分自身が何の価値もないゴミクズに思えて来る。労働者として雇ってもらえない事が、即ち自分という人間に価値がない事の証明の様に思えて来るわけだ。で、「ああ、今の自分は間違いなくゴミクズだな。むしろゴミクズ以下だな」と他の誰に言われるまでもなく自分自身で考える様になった時に、嘘でも慰めでも何でもいいから「いや、そんな事ないって」と言ってくれる誰かがいるかどうか。結局はそれが生きて行けるかどうかの分かれ目だと思うのだ。まあ、そんな慰めの言葉が余計胸に突き刺さる事もあるし、勤め人になればなったで今度はまた別の苦労がある訳だけれど。

 社会は狭量で、個人の苦悩や悲しみを斟酌してはくれない。自分達は物語の主人公ではないからだ。都合の良いストーリーが用意されている訳ではない世界の中で、自分達は何度も挫けてはよろよろと立ち上がる事を繰り返している。何度も自分の価値を疑いながら、少しずつすり減っていく自分の可能性を悲しげに見つめながら、それでも何とかやっている。

 誤解を恐れずに言えば、社会にとって個人の価値など無だ。社会にとってはたかだかその中の構成員の一人が泣こうが笑おうが、生きようが死のうが何の影響も無い。そんな中で自分達に見付けられる居場所はきっと、同じ様に居場所を探して生きている誰かの隣なのだろうと思う。


“終わりまであなたといたい それ以外確かな思いが無い
 ここでしか息が出来ない 何と引き換えても 守り抜かなきゃ”


 お互いがお互いの居場所になること。
 友達でも恋人でも何でもいい。誰かにとって自分が無ではないこと。そしてその誰かが居場所を見失っている時に、自分もまた相手にとっての居場所になろうとする事。それは嘘かもしれないし、偽善かもしれないし、弱い者同士が傷の舐め合いをしているだけなのかもしれない。無様で滑稽なのかもしれない。でも、それでもこの狭量な世界の中で居場所を失うよりはいい。


“怖かったら叫んで欲しい すぐ隣にいるんだと 知らせて欲しい
 震えた体で抱き合って 一人じゃないんだと 教えて欲しい
 あの日のように 笑えなくていい だって ずっと
 その体で生きてきたんでしょう”


 最近は何を書いても震災や原発事故と結び付けてしまうのでいい加減自重しようとは思うのだけれど、それでも敢えて書くならば、自分があの日から感じている怒りや悲しみが何に起因しているのかというと、それは自分や自分にとって大事な人達の居場所が脅かされているからだと思う。

 原発事故から半年以上が経過した今も自宅の玄関先の放射線量は0.2マイクロシーベルト毎時で、自宅の隣にある土がむき出しの空き地は0.4マイクロシーベルト毎時だ。小さい子どもがいる家庭では母親と子どもだけが県外に避難し、仕事を抱えた父親と離れて暮らしているという話もよく聞く。どんなに平静を装っても、自分達はまだあの日がやって来る前の様には笑えない。もしかすると、これから先一生そうなのかもしれない。でも『あの日のように笑えなくていい』と歌ってくれる誰かがいるのなら、少なくとも自分はまだやって行ける。

 今この時だけは、まだそう思える。

 
 

テーマ : 邦楽
ジャンル : 音楽

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Author:黒犬
映画と小説を主食に生きている。
地方の片隅で今日も黙々生息中。

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