あなたの知らない江戸、あります。・高橋由太『ちょんまげ、ちょうだい ぽんぽこ もののけ江戸語り』

 時代劇が、好きである。

 いきなり何事かと思うかもしれないが、自分は小さい頃から何故か時代劇が好きだった。どの程度好きだったかといえば、「家に長楊枝が無かったものだから、代わりに割り箸を咥えて『木枯し紋次郎』の真似をしていた位」には好きだった記憶がある。そして三度笠の代わりにざるを被っていたら「背が伸びなくなるからやめなさい」と言われた覚えがある。我ながら変な子どもだ。

 さて、時代劇という奴は『水戸黄門』とか『暴れん坊将軍』とか『遠山の金さん』とか、あれこれ例を出すまでもなく様式美の世界、悪く言えばワンパターンなものだと思われがちなのだろうが、実はどんな食材も美味しくいただける鍋料理の様に懐の深いものだ。どんなに奇抜な要素を入れても、大抵は破綻する事無く取り入れてしまう。
 時代劇は時に人間ドラマであり、時に社会風刺的な作品にもなる。刑事モノの様な作品があるかと思えばハードボイルドな作品もある。そうした『何でもあり』な部分は、実は漫画やライトノベルとも近い……と、ここまでがやや強引な前置き。

 本作『ちょんまげ、ちょうだい』は、『ぽんぽこ もののけ江戸語り』というサブタイトルからもわかる様に、時代劇に妖怪を登場させるという、時代劇好きかつ妖怪好きな自分からすれば一粒で二度おいしい作品になっている。
 主人公は美貌の剣士、相馬小次郎。そしてそのパートナーとなるのは可愛らしい町娘の姿をした化け狸、ぽんぽこだ。凄腕の剣士でありながら、太平の世となった江戸で貧乏長屋暮らしに甘んじる小次郎と、ちょっと天然が入ったぽんぽことの掛け合いは微笑ましい。腹を空かせた二人は口に糊する為、口入れ屋に仕事を求めに行く事になるのだが、そこで思わぬ事件に巻き込まれる事となり――。

 美形で凄腕の剣士という設定なのに、冒頭から空腹を紛らわす為に狸寝入りを決め込む小次郎と、その横で「化けたので、もっとお腹が空いてしまいました」などと言うぽんぽこの腹ペコキャラぶりも相当なものなのだが、たとえどんなに剣の腕が立とうが美形だろうが、様々な姿に化けられようが、働いて稼がなければ食うに困るという真理から目を逸らさない作りは、アニメで喩えるなら『カウボーイビバップ』的である。思えばあの作品も肉なしチンジャオロースとかあったなそういえば。

 さて、そんなお腹を空かせた二人なので、読んでいるこちらもつられてお腹が減ってくる。そして食事の場面ではとても美味しそうに食べるので、つられてこちらも何か食べたくなってくる。ダイエット中の方は要注意――というのはまあ冗談だが、それだけ登場人物達が生き生きと描かれているという事だろう。もちろん、コミカルなシーンだけではなく、ちゃんと格好良い殺陣もある。多少懐が寒くても腹ペコでも、決める所はびしっと決めるのが主人公というものだ。

 普段、「時代劇はちょっと……」という方にこそおすすめしたい本作。特にぽんぽこの天然振りを眺めているだけでもなかなか癒されるものがあるので、普段の暮らしにお疲れの方は、本作でちょっと江戸まで足を延ばしてみるのもいいかもしれない。

 

テーマ : 本の紹介
ジャンル : 小説・文学

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地方の片隅で今日も黙々生息中。

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