想像力を刺激するアイディア ライアン・ノース編『マシン・オブ・デス』

 

 ここに機械がある。それは『人の死を予言する機械』だ。自分が何によって死ぬ運命にあるか知りたいと願う人間はその機械に指を差し込む。すると機械は自動的に採血を行い、やがて一枚の紙片を吐き出す。その紙片には、検査を受けた人間が何によって死ぬかが簡潔に書かれている。
 ある者は『癌』またある者は『自殺』等、機械は被験者の死因のみを告げる。しかしそれが何時かは知らされない。それは数十年後かもしれないし、明日かもしれない。そして厄介な事に、この予言は外れるという事がない。絶対に。

 例えば自分がその『死の機械』を使って自らの死因を知ったとする。仮にそれが『溺死』であったなら、好き好んで海や湖、プール等に行こうとはしない筈だ。可能な限り水を避け、命を長らえようとするに違いない。しかし、どんなに運命から逃れようとしても、機械に『溺死』という死因を告げられた人間は必ず溺死する事になる。機械が告げる運命を変える事、死の機械を出し抜く事は誰にも出来ないのだ。

 むしろ『溺死』の様なわかりやすい死因を引き当てた人物は幸運かもしれない。もしも機械によって告げられた死因が『ボート』等の抽象的な単語だったらどうだろう。乗っていたボートが転覆するのだろうか。海や湖で泳いでいる時にボートのスクリューに巻き込まれるというのもあり得る話だ。ならば水辺に近寄らなければ安全かというとそんな事もなく、ボートを積んだ車と交通事故を起こして、突っ込んで来たボートに潰されるという事もあり得る。とにかく、ボートによって死ぬと予言された人間はどんなに足掻こうが結局はボートによって死ぬ事になるのだ。例外は認められない。

 もしも望むのなら、皆が『自分の死因』を知り得る世界。その逃れ得ぬ運命を前にして、人はどう生きるのか。知りたいという欲求に負けて機械の前に立つのか、それともあえて死の運命を知らされない生き方を選ぶのか。そして仮に知ったとすれば、その後の人生をどう生きようとするのか。

 もちろん、現実にはこんなおぞましい機械は存在しない。しかし編者の一人であるライアン・ノースが思い付いた『死の機械』のアイディアは多くの人々を魅了した。人々は想像を膨らませ、様々な死にまつわる物語を書き始める。本著はそんな『死の機械』が存在する世界をテーマに執筆された作品を収録した短篇集である。これが面白くない訳がない。

 自分は沢山の本を読む。その中でも優れた物語には、人々を惹きつけるアイディアがあると思う。それに触れた読者がつい「自分が作者だったらこうする」という風に想像を膨らませてしまう様な優れた世界観。そして「自分が物語の登場人物だったらどうするだろう」とつい考えてしまう様な物語としての強度がそこにはある。こういう物語に出会える事があるからこそ、本読みはやめられない。

 一冊の本が与えてくれる世界の広がり。仮に死の機械が自分の死因を『本』だと告げたとしても、それを手放そうという気にはきっとなれないだろう。

 

テーマ : 本の紹介
ジャンル : 小説・文学

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Author:黒犬
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地方の片隅で今日も黙々生息中。

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