時は金なり。ならば人生は? アンドリュー・ニコル『TIME』

TIME

 大変興味深い映画だった。それと同時に、酷く恐ろしい映画でもある。この映画は世界の未来を描いている様でいて、その実残酷な現代社会を描いているからだ。自分達が生きている、この世界の醜悪さを描いているからだ。

 未来において、人類は老化を克服していた。この世界で生まれた人間は皆普通に成長するが、25歳を迎えた時点でそれ以上老化する事がなくなる。だから大人達の外見年齢は皆20代半ばでありながら、実年齢が50代、60代という者もいるし、中には100歳を越えた者もいる。相手がどれだけ長い人生を生きてきたのかは外見から推し量れない。

 老いて死ぬという事を克服した人類は繁栄していると言えるのだろうか。答えは残念ながら否だ。この世界では確かに老いて死ぬ事はない。しかし25歳を過ぎた時から、人々は自分の『余命』を常に意識し続ける生き方を強いられる。自分の左腕に浮かび上がるデジタル時計『ボディ・クロック』のカウントダウンによって。
 ボディ・クロックのカウントダウンは、そのまま自分の余命を表している。よってそれがゼロになる時、人は若々しい外見のまま突然死するのだ。更にこの世界には通貨が存在せず、現実の世界なら通貨をやり取りする様な場面で自らの持ち時間を差し出す事を求められる。例えばコーヒー一杯は4分。公衆電話の使用には1分。バスに乗りたければ2時間など。だからこの世界で本当に不老不死と言えるのは、資産としての時間をたっぷりと蓄えた一部の特権階級だけで、スラムに住む者達はその日の命を繋ぐ為に日雇いの重労働をして文字通り『時間を稼ぐ』生活を強いられる事になる。
 貧しい者は朝目覚めて真っ先に自分の『残り時間』をチェックする。そこに一日以上の時間的余裕がある事など稀だ。明日も同じ様に生きている為に、今日何が出来るか。何をしなければならないか。無駄に出来る時間などある訳がない。立ち止まっている間にも人生の残り時間はカウントダウンを続けて行く。だからスラムの人間は走る。一分一秒の時間を無駄にしない為に。

 一言で言って、この世界観は狂っている。正気の産物ではない。よく『時は金なり』と言うが、その言葉をここまで露骨に反映した世界観はなかなか無いだろう。この世界での貧しさは余命の短さに直結している。富める者が永遠の命を手にする一方で、貧しい者は死ぬしかない世界。それは狂った、壊れた世界だ。でもその反面、自分達はこの狂った世界によく似た世界の中で生きているとも言える。それはこの現実世界だ。

 自分は昔、コンビニの深夜勤で食いつないでいた時期がある。アルバイトとか、パートとかの時給仕事をした事がある人なら分かると思うが、いざ自分が手にした給与を使う時にふと、「ああ、これって自分の人生何時間分だ」という不毛な計算をしてしまう事がある。
 当時の自分の時給は深夜勤務手当込みで1,000円弱だった。1,000円の商品を買うという事は、自分の人生1時間を費やして手にした金を使う事になる訳だから、実質的には自分の時間を相手に差し出している様なものだと思う。
 当然世の中には同じ時間働いて、もっと大金を稼いでいる人もいる。更に大株主や地主ならば黙っていても定期的に収入が得られるかもしれないし、資産家なら働く必要すらないのかもしれない。そんな世界で1時間働いて、自分がようやく手にする時給が1,000円だとする。そんな暮らしを続けていると、やがてそれが自分自身の値打ちであるかの様に錯覚してしまう。「俺の人生、1時間1,000円かよ」なんてね。まあ今も月給を労働時間で割ればそういう計算も出来る訳だけれど。時給計算より更に虚しいからやらないだけで。
 人間の命に値は付かない事になっている。でも実際には自分達の人生にだってしっかり値段が付けられている訳だ。一ヶ月でいくら、時給でいくらという具合に。まあ仕事そのものに対するやりがいとか、生きがいとか、そういった金額に換算できない要素も含めて考えればまた違ってくるのかもしれないけれど。

 『TIME』がそうである様に、社会には持てる者と持たざる者がいる。格差社会という言葉が叫ばれる様になってからもう何年経つのだろうと思うが、この社会構造が是正される様子はない。自分が日々仕事をして稼ぐ月給などはした金にもならない様なレベルの金を指先ひとつで動かしている人がいる。金があれば他人の時間を買う事も出来る。金、時間、人生、格差。
 『TIME』を観た時、自分はこう言われている気がした。「現実って、こんなもんだろ」と。ここまで露骨ではないかもしれない。でも、現実だって似た様なものだ。持てる者は更に肥え太る。持たざる者は路傍で野垂れ死ぬ。自分はどちらだろうなんて考えるまでもない。

 自分も何とかして日々を生きている。ボディ・クロックは見えないけれど。
 いつか時間切れになる時が自分にも来るのだろうか。その時自分は何を思うのだろう。

テーマ : 映画感想
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映画と小説を主食に生きている。
地方の片隅で今日も黙々生息中。

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