ただ消えて行く命ではなく・河野裕『ベイビー、グッドモーニング』

 

 この物語には死神が登場する。しかし、この物語は死神と死者の物語というよりも、むしろ死を目前にした人間が、それでもなお生きて行こうとする物語だ。そして、死神はそんな人間に寄り添う。

 死神というと様々なイメージがあるだろう。ステレオタイプなものだと、人の命を刈り取る為の大鎌を携え、黒いローブに身を包んだ骸骨、といった所だろうか。しかし本作に登場する死神は黒髪の少女の姿をしている。それも「ユニクロで買った」というデニム地のミニスカートと白いTシャツ姿の。お世辞にも死神らしいとは言えない姿だが、それでも彼女はれっきとした死神であり、ノルマに従って人間の魂を集めているのだという。そして死神の少女は、その理由をこう語る。

 「綺麗なところだけをより集めて、また新しい魂にするのです。ペットボトルのリサイクルみたいなものだと思います」

 ペットボトルのリサイクル。思わずなるほど、と頷いてしまった。
 人の死には様々な形がある。老いて死ぬ人もいれば、若くして死ぬ人もいる。何かを成し遂げて死ぬ人もいれば、志半ばで死ぬ人もいる。病死や事故死等、様々な理由で、様々な年齢の人が死んで行く。そんな死にゆく人々の魂を集め、濁りの無い綺麗な部分をより集めて、また新しい魂を作る。ペットボトルをリサイクルする様に、魂をリサイクルする。

 魂のリサイクル。命の循環。それが人間にとって、そして死にゆく者達にとって、どんな意味を持つのか。正直、自分にはわからない。ただ、死神によって死期が近い事を知らされても、人は最後まで生きて行こうとする。その限られた時間をどの様に過ごすのか。死という避けようのないものとどうやって向き合うのか。それぞれの答えを探そうとして、最後まで生き続ける。それは死神の存在とは関係がないし、死神もあくまで人の生き死にに対して過剰な干渉はしない。ただ死期を迎えた人間の魂を集めに来るだけだ。死神は傍観者でしかなく、生きて行く事も、死ぬ事も人間の側の問題なのだろう。

 人の死を描く事は、人の生を描く事だ。

 この自分もいつか死ぬ。それがいつなのかは分からないし、その時に自分が何を思って逝くのかもわからない。ただささやかな願いがあるとすれば、それは自分という人間に関わった人々に対して、自分の存在が全くの無ではなかったのだと信じて逝きたいという事だ。現実に死神はいなくても、魂が循環する事は無くても、それでも自分が生きた事が無ではなかったのだと信じたい。ただ消えて行くだけの存在ではいたくない。そう思う。そして、そんな願いを抱えた人間にとって、本作は確かな救いになるだろう。

 最後に。本作とリンクした短編小説『グンナイ、ダディ――死神のスタンス』が『ザ・スニーカーWEB』上で公開されているので以下にリンクを。本作と合わせて読めばより深く作品を楽しむ事が出来るだろう。


 ザ・スニーカーWEB『グンナイ、ダディ――死神のスタンス』

 
 

テーマ : 本の紹介
ジャンル : 小説・文学

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