疑心暗鬼という最大の敵・山形石雄『六花の勇者2』

 

 連休明けからこっち、仕事に忙殺されて本を読む時間すら無いという潤いの無い生活をしていた。そろそろ通常に戻りたいところだけれど、どうなるか。

 さて、そんな訳で久しぶりの更新は山形石雄氏の『六花の勇者2』。シリーズのあらすじについては前作である『六花の勇者』の感想を参照して頂くとして、今回もまた「世界を救う選ばれし六人の勇者の中に、招かれざる七人目が敵として紛れ込んでいる」という状況下での戦いが描かれる。

 前作の感想にも書いた通り、魔法や特殊能力がまかり通るファンタジーの世界で「犯人探し」のミステリを展開する事はなかなか難しい。例えば『ドラゴンクエスト』の様な世界で殺人事件が起こり、犯人探しをしなければならない状況に陥ったとしても「ザオリクかけろよ」と言った瞬間に殺人事件という前提そのものが崩壊する。死者が蘇る世界では名探偵の出番はなく、蘇った死者に犯人を尋ねれば良い。それでもなお「被害者は犯人の姿を見る事無く殺された」として話を作る事は出来るかもしれないが、ぶっちゃけ「まあ、被害者も生き返った事だし別段問題は無いよね」という現実では考えられない様な台詞で事件がスルーされる可能性はある。容易に死者蘇生が可能な世界では人の命の価値も大暴落だ。

 話は脱線するが、何せドラゴンクエストといえば世界を救う為に送り出される勇者の初期装備が『ドス(銅の剣)一本と五十ゴールドだけ』という世界である。それはつまり任侠映画の世界で言う所の『鉄砲玉』という奴であり、この辺りにも命の軽さが垣間見える気がする。ちなみにこの文章はかの冲方丁氏が書いた『ドラゴンクエストII 任侠鉄砲玉伝説』からの引用である。個人的にはドラゴンクエストシリーズの二次創作小説としてこれ以上のものはない位の傑作だと思うので、埋もれさせない為にもウェブアーカイブにリンクしておきます。(本サイトからは消えてしまっている模様)

 で、脱線した話を元に戻す。
 『六花の勇者』では本来六人である筈の勇者が七人になってしまっている事、そしてその『七人目』は確実に敵方の内通者として他の勇者の命を狙っているという前提がある。周りは敵だらけ、しかも魔神の完全復活までのタイムリミットが刻々と迫って行くという状況下で、味方内部に潜んでいる七人目が誰なのかを互いに探りあわなければならないというのはなかなかにスリリングだ。そして今回は「七人目探し」の他にも「新たに登場した強敵の弱点探し」という推理が要求される事になり、六花の勇者達は更に追い込まれて行く事になる。

 魔法や特殊能力が存在する世界でミステリを成立させる為には、登場人物達の能力の限界をどこに置くか、そして彼等が置かれた状況をどの様に設定するかという部分での調整が不可欠になる。作者の山形氏はそこを上手くコントロールする事で読者を物語に引き込んで行く訳だが、読者としては「どんなに強力で確実に思える能力であろうとも、その裏をかく事は可能」という事は心しておいた方が良さそうだ。更に続く彼等の物語で、いつ七人目が明らかになるのか、そして彼等は世界を救う事が出来るのか、まだ謎は深い。

 

テーマ : 本の紹介
ジャンル : 小説・文学

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