ここではない、どこかへ・本田壱成『ネバー×エンド×ロール ~巡る未来の記憶~』

 

 悲しい物語は嫌いじゃない。でも、ちょっと狡いとは思う。

 ……なんて、本作を読み終えた人にしか通じないであろう文章から作品紹介を始める自分もちょっと狡い。だからこれはおあいこという事で。
 さて、この物語の核心に触れようとすると、どうしてもネタバレが避けられないのでもどかしい部分がある。それでも物語の内容には極力触れない形で以下に感想を書いて行こうと思う。

 『ここではないどこか』というものに思いを馳せる事は誰にでもあると思う。特に思春期には。それは、ある意味ではその時の自分が抱えているものや、置かれている状況、或いは周囲の環境からの逃避なのかもしれない。辛い、苦しい、逃げ出したい。長い人生の中では誰もがそんな事を一度や二度どころではなく考える。その時人が思い浮かべるのは具体的な場所ではなく、『ここではないどこか』という『可能性』なのではないか。
 こんな事を書くと「そうした『逃避』は弱い人間のする事だ」なんて言われそうではある。まあ自分なんて実際に弱いのだから申し開きも出来ない訳だけれど、それでも言わせてもらうならば、そんな微かな『希望』を持つ事くらいはどうか許して欲しいと思うのだ。

 大人になってわかった、というか思い知らされた事は、自分という存在がこの世の中に対して与える影響なんて大した事がない、という事と、自分はきっと、自分が思い描く理想の世界に辿り着く事無く一生を終えるのだろうという事だった。これは悲観でもなんでもない、ただの事実だ。
 もちろん個人レベルでの幸福や生きがいといった身近な目標について考えれば、努力する事に意味はあると思う。少なくとも全く努力しないよりはいいし、目標に向けて歩き続ければいつかその場所に立てるかもしれない。自分が上に書いた様な理想というのは、もっと遥か彼方にあるものの事だ。例えるなら夜空に瞬く星の輝きを目指して歩いて行こうとする様な、途方も無い話だと思ってくれればいい。

 自分は、自分自身がそこに辿り着けない事を知っている。でも、諦めて目を逸らして生きる事はなお辛い。だから辿り着けない事を承知の上でとぼとぼと歩いているのだ。そして思う。自分はその道程の途中で終わるのだとしても、いつか誰かが、自分が辿り着けずに終わったその場所に、『ここではないどこか』に辿り着いて欲しいと。それが叶う事があるとすれば、きっと遥か先の未来の話になるのだろうけれど、願わくばその時に、今この時代に生きている自分達の存在が「その場所に辿り着いた誰か」の記憶の片隅にでも残っていて欲しいと思う。もしその願いが叶うなら、辿り着けなかった自分にも意味があったのだと思えるから。……要するに、自分はただ消えてしまいたくはないのだろう。

 今はまだ見えないその場所。ここではないどこか。何なら理想郷と言い換えてもいい。その場所を目指す誰かに、そしてその場所にいつか辿り着く誰かに、知っていて欲しい。そして覚えていて欲しい。このどうしようもなく中途半端な時代に、中途半端な世界に、それでも生きて、何かを想い、願っていた人間がいた事を。まあ自分にはそれすらも過ぎた願いなのかもしれないけれど。

 

テーマ : 本の紹介
ジャンル : 小説・文学

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地方の片隅で今日も黙々生息中。

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