よりシンプルに、より力強く・細田守『おおかみこどもの雨と雪』

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 ……これはまた凄い作品を観てしまった。アニメの底力というか何というか。

 昨日が公開初日という事もあって、まだ時期的に観に行けていない方も多いだろうから、以下の感想は物語のあらすじに関する内容は極力含まない方向で書いてみる。まあそれ以前に、未見の方はこんな文章を読む前に劇場に行こう。うん、それが一番。

 さて、「そもそも『おおかみこども』って何よ」とか「これって結局どういう話なの?」という疑問は、作品を観れば誰でも分かる事なのでここで書く事はしない。昨今のアニメというと設定が複雑だったり、原作を知らないと理解が追い付かなかったり、サブカル的な知識を大量に持っていないと楽しめなかったりする作品も多いけれど、本作はそんな事はない。物語はとてもシンプルで、飾り気がない。複雑な設定を持つ物語に慣れた人だと、あまりにもシンプル過ぎて味気なく感じる人もいるかもしれないと思うくらいだ。さながら味付けの濃い料理を食べ慣れた人が、薄味の料理を食べた時に物足りなさを感じる様に。でも自分は料理にたとえるならば、このさじ加減が素材の味を引き出していると思う。それは作品のテーマや登場人物達の心の動きが直接響いて来る感じがする、という事だ。

 自分は、細かい設定がこれでもかと盛り込まれ、作中で語り切れずに別途設定集や副読本を必要とする様な、いわゆる味付けの濃い物語も嫌いではない。むしろ一時期はそういった作品ばかり追い掛けていた時期もある。けれど、そういう風に大作志向になり、複雑化し、どんどん話のスケールが大きくなっていくものだけがアニメ作品かというと、必ずしもそうである必要はないと思うのだ。アニメは確かに何でも、どんなにスケールの大きな世界観でも映像化出来る表現形式だけれど、だからといって全てのアニメ作品がそういったものである必要はない。本作の様にシンプルで、素朴で、だからこそ力強い物語を描く事だってアニメには出来るのだから。

 本作は家族の物語だ。そこには父親の物語があり、母親の物語があり、成長して行く子ども達の物語がある。そして、周囲で彼等を見守る人々の物語でもある。伝えたい事はシンプルで、それぞれのテーマは誰の心にも直接届く様になっている。それがとてもいい。作品を観る人の年齢を問わない事。様々な人がこの映画に触れて、それぞれの『今』を想い、劇場を出る時にはその『今』を生きる上での大切な、何か温かいものを持ち帰る事が出来る様になっている事。そういう意味でのスケールの大きさをひしひしと感じた。重ねて言うけれど、本当に凄い作品を観たなという満足感がある。

 普段アニメ映画には足を運ばないという人も、本作だけは騙されたと思って観に行ってもらいたい。自分にしては珍しく、それ位強力にお薦めしたい作品。こういう作品が評価されて、興行的にも大成功して、次に繋がってくれると個人的にこれ以上嬉しい事はない。

 

テーマ : 今日観た映画
ジャンル : 映画

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地方の片隅で今日も黙々生息中。

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