攻撃衝動の無害な捌け口として・深見真『僕の学校の暗殺部』

 

 一読して、いかにも深見真氏らしい作品。学園モノにガンアクション要素を足すのは氏の得意技で『ヤングガン・カルナバル』や『疾走する思春期のパラベラム』等、これまでも様々な作品があった。本作では、人間社会に潜む『いるか人間』を人知れず抹殺する為に組織された『暗殺部』が存在する高校を舞台に物語が展開する。

 『いるか人間』とは、この世のどこかに存在するという邪悪な『いるか』によって、頭の中に『いるかの子ども』を植え付けられた人間の事で、大抵は自己中心的かつ残虐な性格をしている。元々そうした性格傾向にある人間を選んでいるか人間にしているのか、いるか人間になる事によってその様な性格に変わって行くのかは判然としないが、彼等いるか人間達は世界から人間を一人でも多く抹殺する事を目的としているらしい。そしているか人間に対抗する為に組織された数多くの組織の中に、高校生によって組織された『暗殺部』が存在するという訳だ。勧善懲悪の正にエンタメ小説、といった趣。

 自分の独断と偏見だけれど、この『いるか人間』という設定は「高校生が実在する銃器を使って敵=人を殺す」という小説をライトノベルの範疇で正当化する為のギミックなのだろうと思う。「いるか人間は既に人間ではないし、彼等の邪悪な行動を阻止する為には殺すしかない」という前提を用意する事で、悪人を撃ち殺す暗殺部の行為は正当化される訳だ。それは人を撃ち殺す事とゾンビを撃ち殺す事の違い、と言い換えてもいいだろう。撃ち殺しても構わない存在としてのゾンビやいるか人間を用意する事で、物語の登場人物達は罪悪感を抱く事無く相手を撃ち殺せる様になる。そして同時に、そんな物語をエンタメ小説として消費する読者の『欲望』も正当化される事になる。読者の欲望とは何かと言えば、それは日常生活の中で抑圧されている攻撃衝動を解き放つ事だ。

 他人に平気で迷惑を掛ける様な奴を殴りたい。悪人に罰を与えたい。人殺しは死刑になって、自分の命で償いをするべきだ。法で裁かれない悪人には誰かが天誅を下すべきだ。それも被害者よりももっと酷い、むごたらしい目に遭って死ぬべきだ、等々。レベルの差はあるにせよ、普段の生活では一切暴力的な行為をした事が無い人でも、時としてこんな風に攻撃的な気持ちを持つ事はある。もちろん日常生活の中で実際に相手を殴るなんていう事を繰り返す訳には行かないから、自分達は自制心によってそうした攻撃衝動を抑圧している訳だけれど、そうした気持ちを無理に押さえ込んだままでいる事もストレスが溜まる。だから自分達は他人に迷惑を掛けない方法で自らの攻撃衝動を発散させなければならない。その為の方法の一つとして、本作の様な作品はある。人間が抱え込んだ攻撃衝動の、無害な捌け口として。まあ実際、それは『必殺仕事人』でもいいし、『水戸黄門』でも『暴れん坊将軍』でもいい。大抵の時代劇は勧善懲悪の様式美の世界だし、悪人は必ず最後には斬られて終わる。時代劇が苦手なら変身ヒーローものでもいいかもしれない。何にせよ、時々そうしたものを摂取する事は健全な社会生活を営む上で必要だ。

 こんな事を書くとまた「映画にしろ小説にしろ、或いはゲームにしろ、昨今は暴力的な作品が多いから同種の行為が助長されるのだ」と怒られそうだが、でもそうした作品を--あくまでフィクションとして--楽しむ以外の場所に攻撃衝動の捌け口を設定するとろくな事がない気がする。例えばいじめとか。集団の中で「こいつはいじめてもいい」という相手を設定する事で、いじめる側の心理的抵抗は減る。いじめる理由は何でも構わない。相手を「いじめても構わない存在」として認識する事が出来ればいい。それは先に書いた「ゾンビなら撃ち殺してもいい」という発想と大差ないのだけれど、フィクションの世界と違って、現実の誰かを攻撃対象にした時点でそれは害悪になる。またネット上で、匿名で誰かを叩く事もそうだ。自分が正しいと思う人間ほど相手を叩く事に余念がないのは、自分の攻撃衝動の正しさを信じて疑わないからだ。そんな風に気を抜くと暴発してしまう攻撃衝動を安全に持ち歩くには、銃と同じ様にセーフティーロックが必要なのだろう。もしくは一度振り上げた拳を安全に下ろす為のデコッキングレバーとか。

 自分は思う。同じく深見氏の著作である『アフリカン・ゲーム・カートリッジズ』の感想でも少し書いたけれど、現実の誰かに攻撃衝動の矛先を向けるくらいなら、人は妄想の中でそれをするべきなのだ。フィクションの中で少年少女達が銃を撃ちまくり、いるか人間を殺す。ゲームの中ではプレイヤーが操作するキャラクターがゾンビの群れを撃ち倒す。それらを通じて自分達は他人を傷付ける事無く自らの攻撃衝動との折り合いを付けられる。

 自称『良識のある大人』達は眉をひそめるだろう。けれど本作の様な作品はこれからもきっと無くなりはしない。それはその作品を必要とする自分の様な人間がいるからだ。

 

テーマ : 本の紹介
ジャンル : 小説・文学

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地方の片隅で今日も黙々生息中。

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