しなな泰之『魔法少女を忘れない』

 本を買った後で、想像していた内容と違ったな、という事は結構ある。この本もその一つ。

 内容が想像と違った時、それが自分に合わなかったりするとちょっと残念なものだが、今回は『これはこれで』という感じで楽しむ事が出来た。
 というわけで、しなな泰之『魔法少女を忘れない』だ。

 昔、『泣きゲー』というカテゴリに属するPCゲームが一世を風靡した事がある。この泣きゲーという言葉が出来たのは多分後からだったと思うが、所謂ビジュアルノベル系のゲームから自然発生したもので、『泣けるシナリオ』に特化した、ストーリー性やキャラクター性を重視するゲームだ。

 当時から自分はPCゲーを殆どやらない奴だったので、最初は『何か周囲が盛り上がってるっぽい』という認識しかなかったのだが、『これだけは是が非でもやれ。具体的には○○(キャラクター名)のシナリオだけはやれ』と、命令形で薦められた何本かの作品はやった事がある。ちなみに自分は本なら何でも読むが、こういうアドベンチャーゲームは本当に苦手としているので、大抵は全キャラ完全クリアする前に投げ出す。

 本作を読んで思った。『ああ、これは泣きゲーのテキストだ』

 主人公の高校二年生、北岡悠也は、半年前から養子縁組によって一歳下の義妹となったみらいとの距離感をつかめずにいた。母子家庭で暮らす悠也にとって家族が一人増えるというのはもちろん一大事で、そしてみらいは『元・魔法少女』だった。

 物語の冒頭で、この世界には『魔法少女』と呼ばれる存在がいるという事は示されるものの、では具体的に彼女達が使う『魔法』とはどんなものなのか、彼女達が社会にとってどんな存在なのかは伏せられている。春夏秋冬の四章に分けられた各エピソードの中で徐々に明かされる魔法少女の実情と、交錯する登場人物達の感情が物語の骨子だ。

 一言で言って、『ベタ』だとも思う。魔法少女に待ち受ける運命や、魔法少女の設定自体ももう少しひねる事が出来たかもしれない。ただあえて言うと、『泣きゲーに論理的整合性や複雑なギミックを求める事自体が不毛かつ無意味』な行為だと言える。
 恋愛ドラマを楽しんでいる人に『こんな事現実にはあり得ねーよ』と突っ込む事が野暮である様に、泣きゲーをプレイしている人に『何このご都合主義なストーリー展開』とか『キャラクターの設定があざと過ぎる』とか突っ込む行為もまた野暮である。そんな事はやっている本人が百も承知だからだ。

 例えば、泣きゲーでよくある『ヒロインが不治の病』とか『ハンディキャップを背負ったヒロイン』とかいった設定は一見安易だが、プレイヤーはその安易さにも十分気付いた上でシナリオやキャラクターに共感し、泣く事も出来る。その為には当然プレイヤーの感情の依り代である各キャラクターが魅力的でなければならないが、小説でもこれは同じ事だ。

 その点、本作の登場人物達は皆善意に満ちていて誠実だし、その悩みも共感を得やすいと思う。
 結局読者はいつもそうやって自分の気持ちのいくばくかを登場人物に重ね合わせながら、物語を読み進めて行くのだろう。願わくば物語の様に、読者の生きる現実にもハッピーエンドが用意されていて欲しいものだけれど、こればかりは何とも言えない。だからこそ、こういう物語への欲求はずっとあるんだろうと思う。

 

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Author:黒犬
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地方の片隅で今日も黙々生息中。

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