壊れた世界に残るもの・一二三スイ『世界の終わり、素晴らしき日々より』

 

 終末ものが好きなんだよね。前にも書いた事の繰り返しになるから、ここで再び書く事はしないけれど、検索フォームに『終末』と打ち込んでみれば、ブログ内検索で色々と過去の記事が出て来る程度には好きだ。何なら執着していると言い換えてもいい。
 そんな自分にとって『世界の終わり』なんていう言葉を冠した小説は、これはもう「読め」と言っているのに等しい訳で、早速手を出してみた。

 一読して「これは終末ものというよりも、戦争の方に比重が置かれた作品なのかな」という印象を持った。終末的な世界観については『ある日突然に原因不明の現象でほとんどの人が消えてしまった世界』という結構薄味なもので、それよりはほぼ同時期に開戦を迎えた、日本と敵対する隣国である『高国』との戦争の影響が色濃く描かれている。開戦直後に「人々の消失」が発生した為に双方戦闘継続が困難になり、事実上の休戦状態になっているとはいえ、登場人物の中には高国の兵士や、国防軍(自衛隊に当たる)の中尉等が重要な役どころとして登場する。

 自衛隊の呼称が国防軍になっていたり、隣国との緊張関係があったりと、現代日本を舞台にしていながら本作はややミリタリー色が強い傾向にある。或いは近未来を想定しているのかもしれないが、この戦争状態という設定も物語を駆動させる為の仕掛けに過ぎない。全ては主人公である二人の少女の物語の為に用意された舞台装置だ。だから戦争の大義とか、開戦に至る経緯とか、両国の対応等に関してどれだけリアリティがあるかという部分について論じる事にさして意味は無い。重要な事は、チィとコウという二人の少女が、終わりかけた世界を二人で巡って行くその過程であって、その他にはない。二人の世界を、言い換えれば『二人だけ』の世界を描く為に、予め世界は壊されている。二人がお互いの事しか頼れない様に、余計な登場人物が割り込む余地が無い様に。その為に戦争という状況があり、人々の消失という終末が用意されている。

 世界から人が消える事。その一方で戦争があった事。政府がその機能を果たせなくなり、人口が減少した世界で残された人々が小さなコミュニティーを作って何とか生き延びている事。作者が描きたい主題はそういった「世界の側」にはない。その視線は常に二人の少女に向けられている。だから本作の帯に書かれた時雨沢恵一氏の推薦文にもこう書かれている。

『これは二人の話。
 人がほとんど消えた世界の、
 世界の話ではなくて。
 これは、二人の女の子の話。』

 筆者は作中の世界について、或いは終末や戦争について全てを明らかにはしていない。明確にされない部分はそのままで、語られない部分は語られないままで、チィとコウの物語は進んで行く。その事について何かすっきりしない部分を感じる人もいるかもしれないが、本作に関して言えばそれでいいのではないかという気がした。与えられた断片を繋ぎ合わせて推測できる部分もあるけれど、筆者が作中で多くを語らない以上、それもまたこの物語にとっては瑣末な部分という事になるのだろう。本作で語られるべき主題は世界の側にはなくて、二人の間にだけ存在するのだから。

 終末によって、或いは戦争によって世界が壊れてしまう時、きっとそこには数多くの「失われてしまうもの」がある。でも自分達はそんな終末を迎えた世界の中にも、壊れずに、消えずに残って行くものを欲しているのではないか。それがあるという事を信じたいと思っているのではないか。だから本作は、壊れた世界の中を旅する二人の姿を描き続ける。壊れてしまった世界の中で、壊れずに残るもの。その姿を追い続ける。

 もし本当に戦争が起こったり、終末が訪れたりしたなら、自分達に残されるものは何だろう。そして自分達が遺す事が出来るものは何だろうか。ふと、そんな事を思った。

 

テーマ : 本の紹介
ジャンル : 小説・文学

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地方の片隅で今日も黙々生息中。

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