夢見る頃を過ぎても・BUMP OF CHICKEN『firefly』

 

 人間生きていれば必ず『夢を諦める時』が来る。小さい頃に抱いた夢を大人になって実現したという人は稀だろう。そういう人は幸運だし、何より夢を実現する為の努力を惜しまなかった人だ。

 こんな風に書くと、夢を叶える事は素晴らしくて、夢を諦めない事は前向きな事で、夢を叶えられなかった原因はその人の努力が足りなかったからで、夢を諦めてしまうのはその人の意思が弱いからだ、という風に聞こえる。そしてそれは概ね正しいのかもしれない。でも例えばの話だけれど、高校野球で甲子園に出場できる学校は全国に数える程しかない訳で、その中で更に優勝を勝ち取る事は本当に難しい事だ。全国の高校球児達が目標にする頂点は、選ばれた者しか立つ事を許されない。これは純然たる事実として、ほとんどの高校球児達はその夢を掴む事が出来ない様になっているという事だ。高校三年間、どんなに練習に打ち込んでも、全てを野球に捧げたとしても、叶えられない夢はある。そして夢が叶わなくても、人はその先へ進んで行かなければならない。夢が叶わなかった後の世界の中で生きて行かなければならない。

 これは別にスポーツの世界だけの話ではなくて、何だって同じ事だ。プロ野球選手になりたい人が全てプロになれる訳ではない様に、作家になりたい人が全て作家になれる訳ではない。いつかメジャーデビューしたくて路上ライブをやっているバンドは全国に数多くいるだろうけれど、彼等の全てがメジャーへの切符を手に入れられる訳ではない様に、芸術家として生きて行こうとしても、誰からも作品が認められないまま終わる事だってある。

 夢を叶えたくて、それをこの手に掴みたくて、人は手を伸ばし続けるけれど、それでも夢に届かなかった時、自分達は夢を諦める。それを追いかけ続ける事に疲れて。或いは生活の為に。でも確かなのは、夢を諦める決断をするのはいつも自分自身だという事だ。そして自分達はその時の記憶を抱えて生きて行く。夢が叶わなかった世界で、その先の日々を生きて行く。嫌だから、辛いから、もう生きている事自体をやめてしまおうか、という訳には行かない。

“物語はまだ終わらない 残酷でもただ進んでいく
 おいてけぼりの空っぽを主役にしたまま 次のページへ”

 『firefly』より

 世の中に『応援ソング』っていう奴は数多くあって、それは沢山の若者を勇気付ける。夢に向かって諦めずに進み続ける事。自分の中の可能性を信じる事。そしていつか夢を叶えるんだ、その為に頑張るんだと歌い続ける。それはどこまでも正しくて、綺麗で、尊くて、だから自分はつい耳を塞いでしまう。
 もちろん、現在進行形で夢に挑む人達にはそういう歌があればいい。常に前を向いて進んで行ける為の歌、その背中を押してくれる歌さえあればいい。後ろを振り向く必要はないから。立ち止まっている暇はないから。でも自分の様に、一度は夢を諦めて立ち止まってしまった人間が、それから先も続いて行く日々をどう歩いて行けばいいのかという事に目を向けてくれる歌はあまりない。
 それでも大人として、社会の中で生きて行く事。生活の為に仕事をして金を稼ぐ事。いつからか毎日がその繰り返しで、それはこっちの心の都合なんて考えてくれない。

“大人の顔をしてから 生き方がちょっと 雑になった
 普通の事だし 普通が大変で 時間に大体運ばれた

 尖った言葉が的確に 胸を貫いて 転がって冷えた
 何も出来ないよ 震えながら 押さえつけていくのだろう”

 『ほんとのほんと』より

 本当は叶わなかった夢なんて忘れてしまって、自分がそれを追いかけていた事があったなんて過去はどこかに捨ててしまって、二度と思い出さなければ楽なのかもしれないと思う。でも実際は野球で結果を出せなかったかつての野球少年が野球を嫌いになる事が無い様に、作家になれなかった人間が本を嫌いになる事が無い様に、自分達はその夢が今もどこかで輝いている事を知っている。自分の手が届かない場所で輝き続けている事を知っている。それに唾を吐く事も、泥を塗る事もできなくて、だからこそ『諦めてしまった』という傷を抱え続けるしかなくなる。夢なんて若さが見せた錯覚で、あんなものに価値は無かったんだなんて、ゴミだったんだなんて言えないから。それが本物だった事は自分が一番よく知っているから。

 ……何だか上手くまとめる事が出来ない。これ以上言葉がない。

 ただひとつ言える事は、このCDに収められている曲は、夢を諦めた世界で生きる自分達の方を向いていてくれるという事だ。今はその事実があればいい。今日も、明日も生きて行く為に。『命の仕掛け』が尽きてしまわない様に。
 
 

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映画と小説を主食に生きている。
地方の片隅で今日も黙々生息中。

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