戦う少女に祝福を・地本草子『黒猫の水曜日 Wednesday in Chat Noir』

 

 たまには頭を使わずに読めるこんな作品を。タイトルがちょっと面白いなと思って手を出してみた。

 米国の民間軍事会社『ムーンエッジ』に所属する16歳の少女、篠原禊のもとにCIAからある依頼が持ち込まれる。それは日本の私立高校に通う少年、十河正臣の監視と護衛だった。学生の身分で正臣の通う高校へ潜入した禊だったが、『黒猫』というコードネームを付けられた正臣は一見ごく普通の高校生の様にしか見えない。なぜ正臣は監視対象とされるのか。そして彼を狙う敵の正体とは?

 ……というわけで、本作には多分に『B級アクション映画分』が含有されている。「民間軍事会社に所属する16歳の少女」という時点でリアリティよりも娯楽性を重視した作品である事は確定しているのだけれど、更に禊は「SEALsの入隊試験に合格した」というとんでもない経歴の持ち主として設定されている。
 ネイビーシールズといえば、軍事マニアでなくてもその名前くらいは聞いた事があるであろう、泣く子も黙る特殊部隊だが、実際の入隊試験は過酷を極める。マッチョな成人男性でもバタバタ脱落する訓練に16歳の少女が合格できるとは思えないが、そこはそれ、ライトノベルや漫画・アニメの世界は「言ったもの勝ち」である。

 『正直、まるで質の悪いジョークです。リドリーだって映画じゃもう少しマシなリアリティを持たせてた』

 作中である人物が禊の事をこう評していたけれど、そのリドリー・スコット監督の映画とは恐らく『G.I.ジェーン』の事だろう。ある女性軍人がネイビーシールズをモデルにした特殊部隊の入隊試験に挑むという映画で、肉体改造だけでなく、頭を丸刈りにしてまで熱演したデミ・ムーアの姿が印象的だった。それにしてもこの自虐的な台詞を作者自ら書いているあたり、結構確信犯的。
 実際はシールズの入隊資格には「男性であること」と明記されているそうなので、女性が入隊試験を受けるという状況そのものがフィクションになる訳だが、この点は作者の地本氏も理解している。これについては「まあフィクションなのでご容赦を」といったところ。

 禊が慣れない学園生活で空回りするシーンなどは、『フルメタル・パニック!』の男女入れ替え版といった感じ。といっても自分は『フルメタル・パニック!』を読んだ事が無いので人から聞いた範囲での印象だけれど、この手の話としてはまあ、お約束という事で。
 ちょっと捻ってある部分としては、禊に護衛される正臣の方にも確かに命を狙われるだけの裏があるという部分だろうか。この部分の設定については賛否両論ありそうな感じもする。それが『黒猫の水曜日』という題名とどの様にリンクして行くのかが本作のテーマのひとつだ。

 それにしても、昨今『戦う女の子』が登場する作品の多いこと。世の男性陣は相当押され気味なのかもしれない。

 追伸、というか蛇足。双子の兄弟の名前が「リック」と「ディアス」なのは「続けて読め」って事でいいんですかね。やっぱり。

 

テーマ : 本の紹介
ジャンル : 小説・文学

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